コラム

女性専用サービスを「女性以外」から守れ! 性別変更の簡易化改革をハリポタ作者が批判(スコットランド)

2023年01月21日(土)16時56分
J・K・ローリング

J・K・ローリング(2016年11月) Andrew Kelly-REUTERS

<法的な性別変更を簡易化する改革についてローリング氏は、女性専用のサービスや空間をトランスの人々にも使わせるのは「女性の権利の破壊」と批判>

[ロンドン]トランスジェンダーの人たちが性別認定証明書を取得しやすくする英スコットランドのジェンダー改革を巡り、待ったをかけた保守党中央政府との間で対立が深まっている。2回目のスコットランド独立住民投票の前哨戦との見方もある。「ハリー・ポッター」の原作者J・K・ローリング氏も反対派に参戦し、英国でも「文化戦争」が激化している。

スコットランドで暮らすローリング氏は1月11日のツイートで、昨年12月18日付の左派系英日曜紙オブザーバーの社説から「自称進歩的な政治家はバランスを主張するにはあまりに臆病なことを証明した。刑務所や家庭内虐待、障害のためのケアを必要とする疎外された女性たちがその結果のしわ寄せを負担させられる」と引用した。

スコットランドのスタージョン自治政府首相を「女性の権利の破壊者 」と批判するTシャツを着て改革に抵抗するローリング氏


オブザーバー紙の社説はこう書く。「女性とは何か? この問いに対する答えは激しい論争を呼ぶ政治問題になっている。女性専用のサービスや、スポーツのために、自ら宣言した性自認を生物学的な性別より優先させるべきだと考える人と、生物学的性別が法律や社会で適切な概念であり続けると考える人の間で起きている有害な紛争の核心にある」

性自認に基づき異性として法的に扱われることを法的に認めるスコットランド自治政府のニコラ・スタージョン首相の改革では、異性として生きることを宣言した男性に性別認定証明書が付与されることになる。これにより性別認定証明書を付与される人の数は10倍に膨れ上がると予測されている。

「性的暴力を含む社会的暴力の圧倒的多数を男の暴力が占める」

「トランスの人たちがニーズに合った専門サービスやジェンダーニュートラルな空間を利用する権利があるように女性にもプライバシーや尊厳を理由に脱衣やケアを受けるために女性専用の空間を利用する権利がある。女性専用スペースは性的暴力を含む社会的暴力の圧倒的多数を男の暴力が占める世界において重要なセーフガードの一形態だ」(オブザーバー紙)

ローリング氏はトランスアクティビストから「トランスフォビック(恐怖症)」「トランス排外主義フェミニスト」と攻撃され、SNS上で何度も炎上してきた。2020年には「『生理のある人』。かつては確かにこうした人たちを指す言葉があったわ」とツイートし、ハリー・ポッター役のダニエル・ラドクリフ氏らから「トランス女性は女性だよ」と批判された。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米国務長官、ASEAN地域の重要性強調 関税攻勢の

ワールド

英仏、核抑止力で「歴史的」連携 首脳が合意

ビジネス

米エヌビディア時価総額、終値ベースで4兆ドル突破

ビジネス

FRBが大手銀行の評定方式改定案、「良好な経営」評
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 6
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 7
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 8
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 9
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 10
    昼寝中のはずが...モニターが映し出した赤ちゃんの「…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story