コラム

プーチンに自国を売り渡し、「戦争の共犯者」に成り下がった「欧州最後の独裁者」

2022年03月12日(土)17時20分
スベトラーナ・チハノフスカヤ

チャタムハウスで講演したスベトラーナ・チハノフスカヤさん(筆者撮影)

<「ロシア軍の補給線を断つ後方からの攻撃を阻止する」と表明したベラルーシのルカシェンコ大統領にも制裁を科すよう、同国の民主派指導者チハノフスカヤ氏は訴える>

[ロンドン発]「欧州最後の独裁者」ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領は3月11日、モスクワでウラジーミル・プーチン露大統領と会談した。これに先立ち、ルカシェンコ氏はウクライナに侵攻したロシア軍の補給線を断つ後方からのいかなる攻撃も阻止しなければならないと表明したとベラルーシ国営ベルタ通信は伝えている。

2020年9月、ルカシェンコ氏はプーチン氏から15億ドル(約1750億円)の融資を取り付けた。昨年12月には新たに30億~35億ドル(3500億~4100億円)の支援を要求しているとみられている。ルカシェンコ氏が自分の体制を維持するために、主権をプーチン氏に売り渡したのは誰の目から見ても明らかだ。

キエフ大公国(9世紀末から13世紀)に起源を持つ3カ国のうちロシア、ベラルーシは「悪の枢軸」と化し、残るウクライナを攻撃する。昨年7月、プーチン氏は「ロシア人とウクライナ人の歴史的統一について」という論文の中で「ロシア人とウクライナ人は一つの民族であり、統一性を持っている」との自説を展開した。

「ロシア人、ウクライナ人、ベラルーシ人は欧州最大の国家だった古代ロシアの後継者だ。しかしウクライナのロシア人は自分たちのルーツを否定するだけでなく、ロシアが自分たちの敵だと信じることを強いられている。ロシアは(3カ国の結束を弱めようとする勢力の策略による)『フラトリサイド(兄弟殺し)』を止めるためにあらゆることをしてきた」

「民主主義の闘いは主権を取り戻す闘いに変わった」

キエフ市民が歓喜の声でロシア軍を迎え入れるという妄想が破れたとたん、ウクライナの主要都市への容赦のない無差別攻撃を開始したプーチン氏こそ紛れもない「フラトリサイド」の主犯である。「皇帝気取り」のプーチン氏はロシア正教を広めたウラジミール大帝に自分を重ね合わせて、独裁のため宗教や歴史を都合よく利用しようとしている。

ベラルーシ民主派のリーダーでバルト三国のリトアニアに逃れたスベトラーナ・チハノフスカヤさん(39)は英有力シンクタンク、王立国際問題研究所(チャタムハウス)での講演で、戦争の共犯者ルカシェンコ氏とその政権に国際決済ネットワーク、SWIFTからの排除をはじめ対ロシアと同様の厳しい制裁を科すよう国際社会に求めた。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

街角景気11月は7カ月ぶりに悪化、物価高に懸念 ク

ワールド

中国大豆輸入、今年は過去最高か ブラジル産購入や米

ワールド

メローニ伊首相、ゼレンスキー氏と電話会談 緊急支援

ワールド

中国レアアース輸出、11月は急増 米中首脳会談受け
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 2
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 8
    『ブレイキング・バッド』のスピンオフ映画『エルカ…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 6
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 9
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story