コラム

新型コロナ後、中国の権威主義が勝利し、欧米の自由民主主義が敗者になる

2020年04月14日(火)12時00分

パンデミック後には世界秩序が激変する?(写真は4月13日、都市封鎖が解けた重慶の壁を破る男)Aly Song−REUTERS

[ロンドン発]欧州問題に詳しいソフィア自由主義戦略センター議長で政治科学者のイワン・クラステフ氏が「新型コロナウイルス危機が生んだ7つの教訓」と題して欧州外交評議会(ECFR)に寄稿している。

この10年、欧州は常に危機をバネにして統合と深化を進めてきた。しかし英国の欧州連合(EU)離脱問題を積み残したまま、100年に1度のパンデミックが激動の欧州をのみ込んでいる。

この危機は世界金融危機や欧州債務危機、難民危機、テロなどとは大きく異なる。未知のウイルスによる不確実性は人の生死だけにとどまらず、経済、政治、社会、生活へと広がり、予想をはるかに上回るパラダイムシフトを引き起こすだろう。

まだ新型コロナウイルス危機を総括するには時期尚早だが、クラステフ氏の指摘した"早すぎる7つの教訓"はパンデミック後の示唆を私たちに与えてくれる。

【最初の教訓】「大きな政府」への回帰

2008年の世界金融危機では金融機関への公的資金注入と財政出動を迫られたあと厳しい緊縮財政を強いられ「小さな政府」に向かったが、今回のパンデミックで「大きな政府」に回帰するのは避けられない。

人々は感染症に対する集団的防御を構築するとともに深刻な大恐慌から脱するため政府の介入を待ち望んでいる。独立不羈(ふき)の精神に則る新自由主義とグローバリゼーションはますます後退する。

【第2の教訓】国民国家の復権

新型コロナウイルスでパスポート(旅券)なしで自由に行き来できるシェンゲン協定国の多くが国境を閉じて管理を強化した。「欧州は一つ」という理念は遠のき「自国第一主義」すなわち国民国家が復権している。

EU市民に保障された公平な医療へのアクセスが自国民第一になる懸念がくすぶる。EU加盟国は新型コロナウイルスの感染を抑えるため国境だけでなく人と人との間に壁を築くよう求めている。

【第3の教訓】プロフェッショナルの信頼回復

世界金融危機や欧州債務危機、難民危機は新自由主義や「人の自由移動」の効用を提唱してきた専門家に対する不信を増幅させ、この10年、ポピュリストを台頭させる温床になってきた。

しかし新型コロナウイルスの感染爆発で欧州には死体の山が積み上げられ、人々は自分の命を守るため科学や医学の声に耳を傾けるようになった。プロフェッショナリズムは信頼を取り戻した。

【第4の教訓】中国型ビッグデータ権威主義の台頭

中国のビッグデータを活用した権威主義が勝利を収める恐れがある。中国の指導者は透明性の欠如からウイルスの流行への初期対応に遅れた。その一方で、大規模な都市封鎖と顔認識システムを活用した権威主義的市民監視で感染封じ込めに見事に成功した。

kimura1.jpg
2階建てのバスには乗客が1人   (筆者撮影)

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

フィッチが仏国債格下げ、過去最低「Aプラス」 財政

ビジネス

中国、米の半導体貿易政策を調査 「差別的扱い」 通

ワールド

アングル:米移民の「聖域」でなくなった教会、拘束恐

ワールド

トランプ氏、NATOにロシア産原油購入停止要求 対
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人に共通する特徴とは?
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 6
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で最も「火山が多い国」はどこ?
  • 9
    村上春樹は「どの作品」から読むのが正解? 最初の1…
  • 10
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story