コラム

王者グーグルすら置いて行かれる、IT業界の「変化スピード」に規制はついていけない

2023年03月01日(水)18時00分
GAFAイメージ画像

CHESNOT/GETTY IMAGES

<かつてのマイクロソフトと同じ──。巨大テック企業を対象とした各国の規制の試みが時代に追いつけない理由>

日本の公正取引委員会が、米アップルと米グーグルが提供するスマートフォンの基本ソフトについて、独占禁止法上、問題になる恐れがあると指摘した。グローバルに展開する巨大IT企業各社に対しては、各国が規制に乗り出しており、公取もその流れに乗った形である。

だが産業界においては、独占禁止法の適用が騒がれ始めるときには、既に対象企業のビジネスはピークを過ぎているというのが常識とされる。実際、巨大IT企業各社の株価は総崩れとなっており、足元では、無名の新興企業が巨大IT企業を脅かす全く新しいイノベーションを生み出しつつある。

公取が問題視したのは、アプリ提供事業者への高額な手数料や、自社アプリの優遇といった措置である。このケースに限らず、巨大IT企業各社は、各分野における基本的なビジネス・インフラや技術インフラ(IT業界ではプラットフォームと呼ぶ)を押さえることで、圧倒的な利益率を得るという、見方によってはかなり強引な経営戦略を展開している。

また世界中に現地法人を置き、情報という物理的な異動を伴わない商材を扱うというビジネスの特徴を生かし、最も税金が安い地域に利益を集中させるといった取り組みも行っている。

各国政府は、各社の振る舞いに対し、適正な競争が阻害される、税逃れが発生する、個人のプライバシーが侵害される、といった理由から規制を強化しようと試みている。だが政府の動きはビジネスよりも圧倒的に遅く、規制強化が実施される段階では、既に技術や企業の世代交代が進み始めていることが多い。

グーグルのビジネスは既に曲がり角

1990年代、IT業界で圧倒的な競争力を誇っていたのは米マイクロソフトであり、当時の同社の強引な経営戦略は各方面から批判を浴びた。だが、米司法省が独占禁止法違反の疑いで動き始めたのは90年代末であり、同社との間で和解が成立したのは2000年代に入ってからであった。

そのときには、既に同社の影響力は大きく低下しており、次の覇者であるグーグルが市場に台頭していたのが現実だ。そして、そのグーグルが今、各国で規制対象としてやり玉に挙がっている。

当局が動くときに時代は変わっているという過去の経験則は、今回にも当てはまる。破竹の勢いだったグーグルのビジネスは、既に曲がり角に来ており、同社の株価はピーク時と比較すると4割近く下落し、大規模な人員削減に追い込まれている。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米財務長官、ロシア凍結資産活用の前倒し提起へ 来週

ワールド

ウクライナ、一部受刑者の軍入隊を許可 人員増強で

ワールド

北東部ハリコフ州「激しい戦闘」迫る、ウクライナ軍総

ビジネス

NY連銀、新たなサプライチェーン関連指数発表へ 2
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 2

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 3

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 4

    無名コメディアンによる狂気ドラマ『私のトナカイち…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 7

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 8

    他人から非難された...そんな時「釈迦牟尼の出した答…

  • 9

    「香りを嗅ぐだけで血管が若返る」毎朝のコーヒーに…

  • 10

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    地下室の排水口の中に、無数の触手を蠢かせる「謎の…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story