コラム

米中の北朝鮮「懲罰」に、能天気な日本はお呼びでない

2017年10月21日(土)15時00分

「国難突破解散」のはずが各党は政局に明け暮れるばかり Kim Kyung Hoon-REUTERS

<経済制裁に舵を切り核接収にも言及した中国。地政学上の大転換の兆しに敗戦国日本はなすすべもない>

日本では能天気な総選挙をやっているが、周囲ではパラダイムシフトが進行中だ。

アメリカの北朝鮮制裁に、ロシアと組んで抵抗してきた中国が、石炭輸入の停止、原子力工学分野での北朝鮮留学生受け入れ停止など、本気を見せだした。中国は北朝鮮の核への対処を、単なる対米協調を超えた自分自身の安全に関わる問題と捉え始めたのだろうか。これをきっかけに東アジアは、「G2」と呼ばれる米中共同支配の方向に向かうのだろうか。

9月中旬、北京大学の賈慶国(チア・チンクオ)国際関係学部長は外国誌への寄稿で、米韓による武力介入に向けて擦り合わせを開始する用意があると主張し、その際に接収する北朝鮮核兵器の管理は中国が行ってもいいと述べた。賈は9月24日付の朝日新聞でも、北朝鮮の核がテロリストの手に渡るなどして中国の安全を直接脅かす可能性に言及している。

10月2日には、米海軍原子力空母ロナルド・レーガンが朝鮮半島沖での米韓共同訓練を行う途上、香港に寄港した。米空母の香港寄港は初めてのことではないが、昨年は南シナ海情勢緊張の中、寄港を許されなかったことに照らして見れば、北朝鮮に対して米中接近を見せつけようとしたのだろう。

何もできない日本

79年2月、中国の鄧小平は「同盟国カンボジアに武力侵攻したベトナムを懲罰する」と宣言して中越戦争を始めた。中国軍は撃退されたが、この軍事行動を通して鄧は人民解放軍への抑えを盤石なものとした。

そして今、アメリカは巡航ミサイルと爆撃で北朝鮮中枢と核関連施設、そしてソウルを狙う砲撃陣地を破壊。中国は陸軍で国境を固める一方、特殊部隊を送って北朝鮮の核兵器を接収し、金政権交代を後見する――こんなシナリオがうまくいけば、中国の習近平(シー・チンピン)国家主席も軍掌握を確かなものにできよう。

それに、台湾や南シナ海の制圧に乗り出して外交上孤立するより、北朝鮮を「懲罰」して対米協調を演出すれば、「アジアは中国に任せる。ただしアメリカとはきちんと付き合うこと」というお墨付きをトランプ米大統領から引き出せるかもしれない。そうなっても、米軍は太平洋戦争の成果である在日基地を捨てないし、日米同盟は続くだろう。だがアジアでの日本の地位や発言力は大きく落ちる。

だが、米中は本当に武力行使に踏み切るだろうか。やるのなら、指導者を交代させ、核施設を破壊・制圧しなければ意味はない。しかも、砲撃・ロケット弾陣地を短時間で破壊しないと、ソウルが火の海になってしまう。

そして落下傘降下の特殊部隊の投入程度で、地下に潜伏する金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長を捕捉できるのか。北朝鮮の上層部や国民を納得させられる後釜はいるのか。何よりも米中は、北朝鮮の保有する核兵器・核開発能力の全てを捕捉して、報復攻撃や国外への流出を防ぐことはできるのか。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、イランへの限定攻撃「検討している」

ワールド

トランプ大統領、3月31日─4月2日に訪中=ホワイ

ワールド

ECB総裁後任巡る報道は「憶測」、時期来れば積極関

ビジネス

米新築住宅販売、12月は1.7%減 建設中在庫は約
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
2026年2月24日号(2/17発売)

帰還兵の暴力、ドローンの攻撃、止まらないインフレ。国民は疲弊しプーチンの足元も揺らぐ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より日本の「100%就職率」を選ぶ若者たち
  • 2
    海外(特に日本)移住したい中国人が増えている理由...「落葉帰根」派も「落地生根」派も
  • 3
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く高齢期の「4つの覚悟」
  • 4
    100万人が死傷、街には戦場帰りの元囚人兵...出口な…
  • 5
    中国政府に転んだ「反逆のアーティスト」艾未未の正体
  • 6
    ロシアに蔓延する「戦争疲れ」がプーチンの立場を揺…
  • 7
    ディープフェイクを超えた「AI汚染」の脅威──中国発…
  • 8
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 9
    「窓の外を見てください」パイロットも思わず呼びか…
  • 10
    生き返ったワグネルの「影」、NATO内部に浸透か
  • 1
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より日本の「100%就職率」を選ぶ若者たち
  • 2
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発される中国のスパイ、今度はギリシャで御用
  • 3
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」でソフトウェア株総崩れの中、投資マネーの新潮流は?
  • 4
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 5
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 6
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 7
    海外(特に日本)移住したい中国人が増えている理由.…
  • 8
    「目のやり場に困る...」アカデミー会場を席巻したス…
  • 9
    オートミール中心の食事がメタボ解消の特効薬に
  • 10
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story