コラム

コロナ禍ではまった「未来予測ゲーム」

2020年12月09日(水)13時40分

既に異常に高騰していたイギリスの住宅だが、コロナで人々はいっそう快適な居住スペースを求めるようになった Hannah Mckay-REUTERS

<在宅ワークで水不足が進む? 住宅市場は崩壊? 経済苦の人は多くない? 知恵をしぼって具体的な大胆予測をしてみると、コロナ禍のカオスにも何らかの理論が成り立つことが見えてくる>

ある友人と僕はここ数カ月、大胆予測ゲームをしている。知識に基づく推測をしてこれから起こることを言い当てるのがポイントで、しかもかなり極端で具体的でないといけない。「失業率が上がるだろう」とか「マイナス金利になる可能性が高い」などではダメで、「2021年のイギリスの失業者は500万人に達するだろう」とか「銀行に預金手数料を払わなければならない制度が春までにできるだろう」とかでなければならないのだ。

まだ僕たちみんなが新型コロナウイルスは大騒ぎするほどのものじゃないと思っていた時期に、凶事の預言者カサンドラのごとく、僕の友人はコロナが世界を変えるだろうと言い、この予測ゲームを始めた(僕たちは彼に言ったものだ。「鳥インフルエンザとか豚インフルエンザの時のことを思い出せよ......」)。

彼は教師だが、実際に職員会議で、学校閉鎖になった場合に備えた計画を立てておくべきだと提案して、上司から叱責されたりもした。そんな話は「議題に上っておらず」、教育省はそんな可能性などみじんも発言していないだろう!

そしてもちろん、イギリスの学校はそれから3週間後に休校になり、彼の勤める学校はオンライン授業の準備すらできていなかった。

僕は、今年の夏にイギリス南東部で給水制限が行われるだろうと予測した。ここ数年は、給水制限目前の水不足が続いていた。人口は増え続け、降水量は増えていない。そして今年は、1日に何度も手を洗えと言われるようになり、職場やパブやレストランの節水型男性用便器とは違って水洗トイレが一般的な各家庭で過ごすことが増え、庭を持つ人々は普段よりガーデニングに熱中した(ロックダウンを「ガーデニング休暇」と呼ぶ人々もいた)......。そんなわけで僕は、自分の理論が理にかなっていると思ったが、春に数週間の降雨があったため、水不足危機は回避された。

それでも、ある特定の主張を展開してその限界を学ぶのはおもしろかった。続いて僕が予測しているのは、今後10年の間に、降水量がより多く人口がずっと少ない英北部から、水の輸送システムが構築されるだろう、というものだ。

多くの人々は、コロナで住宅価格が崩壊するだろうと予測していた。イギリスの住宅価格は法外な高騰が続いていて、経済危機が起これば吹き飛ぶだろうとみんな考えていたから、この予測は明らかに思えた。

ところが差し当たり、住宅価格は今も記録的なレベルに高騰している。結局のところ、コロナが「スペース獲得競争」を引き起こした。つまりカネのある人やローンが借りられる人は誰でも、家でのリモートワークのために今より広いスペースを望み、仕事場にできるもう一部屋を欲しがり、歩き回れる空間を求め、庭を持ちたがり......という状況になったのだ。

家には「寝に帰るだけ」だからアパートが狭いのは気にならない、という時代は去った。住宅価格の下落はいずれ起こるかもしれないが、その時まで待とうと思わない人だっているのだ。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日経平均は小幅続伸、半導体関連小じっかり 積極売買

ワールド

韓国国民年金、新たなドル調達手段を検討 ドル建て債

ワールド

アサド政権崩壊1年、行方不明者の調査進まず 家族の

ビジネス

豪中銀が金利据え置き、利上げリスクに言及 緩和サイ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 7
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 8
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 9
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「…
  • 10
    「1匹いたら数千匹近くに...」飲もうとしたコップの…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story