コラム

コロナ禍によって拡大した、デマ・陰謀論コンテンツ市場

2021年06月25日(金)17時30分

コロナにまつわるフェイクニュースやデマは世界中に溢れ、いまだに収まっていない  REUTERS/Henry Nicholls

<コロナにまつわるフェイクニュースやデマは世界中に溢れたが、これをもたらしたのは、YouTube、フェイスブック、ツイッターなどのターゲット広告が誤情報の氾濫を招いたと指摘されている>

SNSプラットフォームがフェイクニュースに利益をもたらす

利益目的でフェイクニュースや陰謀論を流すのは以前からあったことで、ことさら目新しいわけではない。問題はパンデミックによって、フェイクニュースや陰謀論へのアクセスが増加しビジネスとしての旨みが増したことと、有効な措置をとらなかったプラットフォームの怠慢のために多くの問題が発生したことである。

コロナにまつわるフェイクニュースやデマは世界中に溢れ、いまだに収まっていない。パンデミックにちなんだインフォデミックという言葉も現れた。2020年5月25日、アメリカのシンクタンクNEW AMERICAは、「Getting to the Source of Infodemics: It's the Business Model」と題するレポートを公開し、はっきりとインフォデミックをもたらしたのは、グーグル(傘下のYouTube)、フェイスブック、ツイッターなどのターゲット広告が誤情報の氾濫を招いたと名指ししていた。そしてSNSプラットフォームが問題のある投稿を止められないのは彼らが人権を軽視し、紙媒体のような責任と透明性を持っていないためであるとした。

2020年11月にはネット世論操作の研究で有名なオクスフォード大学のComputational Propaganda Projectのデータメモ「Profiting from the Pandemic Moderating COVID-19 Lockdown Protest, Scam, and Health Disinformation Websites」が公開された。

このメモでは、コロナに関して問題となる情報を発信しているサイトのインフラ部分を支えている事業者について調べている。サイトは3種類に分類され、それぞれ40ずつを選び、調査を行った。

1.ロックダウンなどの措置に抗議する
2.コロナに関する詐欺や不正行為、利益供与を促進する
3.公衆衛生に関するデマを発信する

これらのサイトはグーグル、GoDaddy、Cloudflare、フェイスブックなどの機能を利用してコンテンツを提供していた。中でもグーグルとフェイスブックのサービスは特によく使われていた。トラッカーも広く使われており、反ロックダウンサイトとコロナ詐欺サイトの約3分の1は広告用、3分の1は分析用、3分の1はトラッカーとウィジェットが混在している。一方、デマサイトのトラッカーのほぼ3分の2は広告用トラッカーであり、収入源としていかに広告に依存しているかわかる。ここでもグーグルとフェイスブックのトラッカーはよく使われている。

グーグルやフェイスブックは問題となる情報発信に対してモデレーションを行い、排除するようにしているが、不十分かつ効果に乏しいことがわかる。ここで明らかにされたことを表にまとめたものが下記である。

ichida20210625aa.jpg


コロナによってフェイクニュースやデマや陰謀論をネットでばらまく者がより多くの利益を獲得できるようになったことは確かなようだ。2020年7月8日に公開されたGDI(Global Disinformation Index)社の推定によると500の英文コロナデマサイトの2020年の広告収益は25億円だった。もっとも利用されていた広告配信ネットワークはグーグルで、次いでOpenX、アマゾンとなっていた。これらを通じて、世界的なブランドであるロレアル、キャノン、ブルーミンバーグなどが問題あるサイトに広告収益をもたらしていた。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、高市首相の台湾発言撤回要求 国連総長に書簡

ワールド

MAGA派グリーン議員、来年1月の辞職表明 トラン

ワールド

アングル:動き出したECB次期執行部人事、多様性欠

ビジネス

米国株式市場=ダウ493ドル高、12月利下げ観測で
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワイトカラー」は大量に人余り...変わる日本の職業選択
  • 4
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 5
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    ロシアのウクライナ侵攻、「地球規模の被害」を生ん…
  • 9
    「裸同然」と批判も...レギンス注意でジム退館処分、…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story