ニュース速報

ワールド

焦点:EU・トルコの難民対策合意、課題多く実効性は不透明

2016年03月22日(火)17時55分

 3月18日、EUとトルコは、欧州へ押し寄せる難民問題への対策で合意した。ただ、合意が実行できるかは不透明で、数カ月以内に計画が失敗に終わる可能性もある。写真はトルコのエルドアン大統領、ブリュッセルで2015年10月撮影(2016年 ロイター/Francois Lenoir)

[ブリュッセル 18日 ロイター] - 欧州連合(EU)とトルコは18日、欧州へ押し寄せる難民問題への対策で合意した。ただ、合意が実行できるかは不透明で、数カ月以内に計画が失敗に終わる可能性もある。

EUとトルコは、トルコからギリシャへ渡る不法移民や難民をトルコへ送り返すことで合意した。EUは見返りとして、資金援助やEUに渡航するトルコ国民へのビザ免除措置の前倒し検討などを約束した。

ただ、課題は多い。クルド人武装勢力との戦いやシリア内戦の影響拡大などの問題を既に抱えるトルコは、難民への対策向けに保安要員を再配置する必要に迫られることになる。

ギリシャにとっても、不法難民を域外へ送り返すためには、ギリシャのお粗末な難民収容や司法制度の改革が必要になる。EU側から支援を得られるかも不透明だ。

また、今回の合意では、拒否するであろう難民を誰がギリシャからトルコに強制的に送り返すのかということに具体的にふれていない。

EU加盟国内と非加盟国が接する国境の警備を実施する欧州対外国境管理協力機関(フロンテックス)は、人権保護団体やメディアの厳しい監視の目にさらされることになる。

アフガニスタンやイラク、シリアからの難民が強制的に移送される様子に、国際社会から厳しい批判が上がるだろう。

<難民対応急務との認識で一致>

共同声明では、EUが協力への見返りとして、トルコ国民のEUへの渡航時のビザ免除を6月末までに実施するとした。ただ、ビザ免除に必要なEUが設けている72項目の基準のうち、トルコが満たしたのはこれまでわずか10項目だ。

オランド仏大統領は記者団に対して「ビザは、全ての項目の基準が満たされてから初めて免除される。言っておくが、項目は全部で72ある」と強調した。

トルコが全ての条件を期限内にクリアできるかEU当局者は疑問視している。ただ当局者は、急を要する難民危機でとりあえず対策をまとめ、問題点をその後で解決していくことを選んだ。

メルケル独首相は、今後様々な問題が持ち上がるかもしれないが、合意に向けて逆行できない勢いがあった、と説明した。

EUのトゥスク大統領は、現時点でできる最善のこと、と評価し「何も合意しないよりは良い」と語った。

(Paul Taylor 記者、 翻訳:伊藤恭子 編集:加藤京子)

ロイター
Copyright (C) 2016 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国習主席、タイ国王と会談 信頼できる隣国を強調

ワールド

ハマス、ガザで支配体制再構築 停戦発効から約1カ月

ビジネス

ニデック、4―9月期純利益58%減 半期報告書のレ

ビジネス

年内に第三者委員会から最終報告が出る状況にはない=
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 5
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 6
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 7
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 10
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中