ニュース速報
ビジネス

アングル:GMのロボタクシー撤退、事業継続への高い壁浮き彫りに

2024年12月15日(日)08時01分

 米ゼネラル・モーターズ(GM)が12月10日、自動運転タクシー「ロボタクシー」事業からの撤退を発表し、開発競争を続けている他のメーカーに厳しい現実を突き付けている。写真はGM製の、車椅子でも乗降が可能なロボタクシー。2023年9月、サンフランシスコのイベント会場で撮影(2024年 ロイター/Abhirup Roy)

Abhirup Roy

[サンフランシスコ 11日 ロイター] - 米ゼネラル・モーターズ(GM)が10日、自動運転タクシー「ロボタクシー」事業からの撤退を発表し、開発競争を続けている他のメーカーに厳しい現実を突き付けている。それは、関連技術を完成させるまで長期にわたって取り組む強い意思と、膨大な資金力が必要不可欠だということだ。

自動運転技術を開発中の各企業は、トランプ次期米政権の下で規制が緩和され、実用化に向けたさまざまなハードルが排除されるのではないかと期待している。

だが今回のGMの動きからは、自動運転車市場の一部を構成するロボタクシー事業は既に幾つもの後戻りを経験し、警戒心の強いドライバーから疑いの目を持たれ、何十億ドルもの資金でも十分ではなかったことがうかがえる。

バーンスタインのアナリストチームはリポートで「GMの決定は、自動運転車の経済合理性が成り立つかどうかという興味深い問題を提起している」と指摘。「経済合理性の成立は可能だが、開発企業が以前のライドシェアのように自前の大規模なネットワークを築こうとするならば、相応の高い技術と多額の資金を投入する積極的な姿勢が求められる」との見方を示した。

GMは100億ドル近くを投資し、昨年には傘下のクルーズを通じたロボタクシーのサービスを開始。一時は業界のトップランナーとして年間500億ドルの収入を生み出す可能性があると期待されたが、依然として赤字体質を脱却できていない。

クルーズのロボタクシーは昨年、カリフォルニア州サンフランシスコで歩行者を巻き込む事故を起こし、同社はその痛手から立ち直れなかった形だ。この事故で同社は米国内の全てのサービス停止を余儀なくされ、人々からは怒りの矛先を向けられ、当局による調査に直面している。

クルーズは今年になり、アリゾナ州フェニックスで人間が乗車して監視する形式での運転再開に乗り出し、ロボタクシー事業復活への第一歩を踏み出した。それだけに、10日の撤退発表は従業員にも衝撃を与えた。

あるクルーズ関係者はロイターに「私が話をした人全員が、一体何が起きているのか必死に理解しようとしていた。どうして良いか分からない。ショックだ。これまで通常通り業務が行われていて、実用化を目指していたところだった」と語った。

とはいえ、幾つかの巨大企業がロボタクシー市場における主導権争いをなお続けている。中でもアルファベット傘下のウェイモは今、米国で唯一の有料ロボタクシーを展開している。トランプ氏の懐深く入り込んで助言役を務めるイーロン・マスク氏のテスラや、ハンドルやペダルのない自動車の走行試験をしているズークスを傘下に置くアマゾン・ドット・コムもあきらめていない。

中国の百度傘下のアポロや、ウィーライドも米国で自動運転タクシーの試験を実施している。

<ライバルと大差>

クルーズが事故に関する当局の調査に対して、罰金支払いやリコール、是正措置の提出などで問題解決に取り組んでいる間に、ライバルたちは自社の計画を先に進めた。

マスク氏は「サイバーキャブ」と名付けたロボタクシーを2026年に生産すると表明し、ウェイモも事業拡大を継続。クルーズの企業価値が暴落した半面、ウェイモはより多くの資金を調達し、テスラの株価は高騰した。

資産運用会社コビッツのシニア調査アナリスト、ジェーソン・ペティット氏は最近GM株を手放したが、アルファベットとアマゾンの株は継続保有している。「クルーズが軌道を外れている間に、競合他社は前進していた」と述べ、クルーズにとって乗り越えなければならない壁は高かったとの見方を示した。

GMは今後、個人用車両の先進運転支援システムの開発を最優先し、20車種余りで利用できるようにする方針を打ち出した。

サウスカロライナ大学で自動運転分野の法制度問題を研究しているブライアント・ウォーカー・スミス教授は、このような方針はGMが本来の自動車製造・販売に注力し、サブスクリプションサービスを通じてより手っ取り早くキャッシュフローを生み出す方法を後押ししてくれると説明する。

「前払いで大金を借りていってそのままにする人よりは、毎月100ドルをくれる人がいたほうがいいということだ」

カーネギー・メロン大学で自動運転車の安全性を研究するフィリップ・クープマン教授は、GMの撤退は他のロボタクシー開発者や事業者に対して、はっきりした警告を発していると解説。「特に、当然配慮すべき安全性に注意を払っていなかったとみなされるような分野で重大事故を起こした代償は、会社全体の価値に匹敵しかねない。だから、株主からいくら開発を急げと迫られても、安全性には留意しなければならない」と訴えた。

ロイター
Copyright (C) 2024 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米経済、26年第1四半期までに3─4%成長に回復へ

ビジネス

米民間企業、10月は週1.1万人超の雇用削減=AD

ワールド

米軍、南米に最新鋭空母を配備 ベネズエラとの緊張高

ワールド

トルコ軍用輸送機、ジョージアで墜落 乗員約20人の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ギザのピラミッドにあると言われていた「失われた入口」がついに発見!? 中には一体何が?
  • 2
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    コロンビアに出現した「謎の球体」はUFOか? 地球外…
  • 7
    「流石にそっくり」...マイケル・ジャクソンを「実の…
  • 8
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 9
    【銘柄】エヌビディアとの提携発表で株価が急騰...か…
  • 10
    【クイズ】韓国でGoogleマップが機能しない「意外な…
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 8
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 9
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中