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焦点:ビール類の税額統一で「パイの食い合い」は止まるか

2016年12月08日(木)18時26分

 12月8日、ビール・発泡酒・新ジャンルの税額を統一する酒税改正の道筋がようやく示された。写真は各社の商品、都内で昨年10月撮影(2016年 ロイター/Issei Kato)

[東京 8日 ロイター] - ビール・発泡酒・新ジャンルの税額を統一する酒税改正の道筋がようやく示された。税額の低い発泡酒や新ジャンルの開発・販売競争に経営資源を割いてきたビール各社にとって、主力商品の強化や新たな付加価値製品の開発などビール強化に傾注できる環境が整う。

ただ、市場縮小に歯止めが掛からなければ、販売促進費をかけた「パイの食い合い」は続き、他国に比べて見劣りする利益率の引き上げは難しくなる。

<税額の差が商品開発にもたらしたゆがみ>

「もうちょっと、稼ぎの良い会社にしたい」―――。来年1月にサッポロホールディングス <2501.T>の社長に就任する尾賀真城氏は、ロイターのインタビューで、自社の利益率向上の必要性を強調した。

日本のビール会社の利益率が低いのは、ビールへの酒税額が高く、ビールよりも安い税額の発泡酒や新ジャンルを開発、安値競争を繰り返したことが一要因と指摘される。三菱UFJモルガン・スタンレー証券のシニアアナリスト、角山智信氏は「酒税額を統一させることで、先進国のビール市場と同様に正規のビールカテゴリーでの商品開発、さらにはプレミアム化が進むことが期待される」としている。

現在の酒税は350ミリリットル缶でビールが77円、発泡酒が47円、新ジャンルが28円。ビールにかかる酒税77円は、ドイツの19倍、アメリカの9倍と、高い税額になっている。与党税制改正大綱では、これを2020年10月から3段階で見直し、2026年10月に54.25円で一本化する方向を明記した。

さらに、ビールの定義が見直されることなども踏まえ、業界内からも「クラフトビールのような商品が増えてくると、ビールの価格にもバラエティが出てくる。高くても特徴のある商品が出てくれば、従来とは違った利益率も可能になるかもしれない」(サッポロの尾賀氏)と変化に期待する声があがっている。

<根強い安価な新ジャンル志向>

値上げとなる発泡酒や新ジャンルから、値下げとなるビールに需要が移れば、利幅の大きなビールの売り上げが増え、利益率の改善につながる可能性がある。ただ、こうした期待の裏側で、利益率改善は難しいとの冷めた見方も多い。

大きな理由の一つは、ビール市場の拡大が見通せないことだ。 

ビール類の税額統一をにらんで、ビール各社は2016年、ビールカテゴリーの強化に取り組んだ。しかし、1―9月期のビールの課税出荷数量は1.5%減。15年には0.1%増と19年ぶりにプラスに転じたものの、16年は再びマイナスに落ち込む可能性が高いという。天候不順のほか、景気停滞から節約志向が強まり「自宅で安価な新ジャンルを飲む」という動きにつながっているためだ。

ビールと発泡酒・新ジャンルの価格差は酒税だけではないため、酒税額が統一された後も25円程度の価格差が残る可能性が高い。機能性商品や価格志向の強い消費者のニーズに対応するためにも、すでに市場に定着した発泡酒がなくなることはなく、日本特有の商品構成は残り続ける。

さらに、税額統一は10年間で3回に分けて実施されるため、1回ごとの増税・減税幅は小刻みになる。消費者にとっては、値上げの痛みは少ない半面、値下げの恩恵も感じにくくなる可能性がある。

<販促費がかかる日本の市場>

拡大を期待するビール市場は、新商品が定番商品化しにくい市場でもある。アサヒグループホールディングス <2502.T>が「ビール復権の年」の象徴として7年ぶりにビールの新商品として今年3月に出した「ザ・ドリーム」も、12月までの計画400万ケース(1ケースは大瓶20本換算)に対して、11月末で143万ケースの販売にとどまっており、計画未達の状況だ。アサヒの小路明善社長は「ビールは(特定のブランドを購入する)ロイヤルユーザー比率が高い」とし、新ブランド定着には時間が掛かると指摘する。

「ビール市場そのものを拡大していかないと、縮小する市場でいくらシェア取っても、シェアで飯は食えない」(キリンビールの布施孝之社長)―――。市場縮小への危機感は強く、キリンは、ビール市場活性化のために、クラフトビール事業に力を入れている。同時に、2018年までの3カ年の中期経営計画のなかで、国内のビール系飲料の広告販売促進費を毎年1000億円程度投じる計画を打ち出している。

税額一本化が実現しても「値上がりする発泡酒、新ジャンルの需要減が加わり、ビール類全体で市場縮小に拍車がかかる」(業界関係者)との懸念も消えない。市場の縮小に歯止めが掛からなければ、高水準な販促費は、収益圧迫要因となって跳ね返る。ビール市場の活性化とともに、シェア争いのために高水準な販促費がかかる日本特有の市場構造を改めることも、利益率向上には欠かせない条件となる。

*見出しを修正しました。

(清水律子 編集:北松克朗)

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