ニュース速報

ビジネス

アングル:「カローラ」50年目の正念場、購入層若返りへ活路開けるか

2016年11月05日(土)18時35分

 11月5日、トヨタ自動車の「カローラ」発売から50周年。世界では今なお同社のベストセラー車だが、国内では若者の心をつかむ車として新たな活路を開けるかどうか、生き残りへの正念場を迎えている。1代目モデル、トヨタ提供(2016年 ロイター)

[東京 5日 ロイター] - トヨタ自動車<7203.T>の「カローラ」発売から50周年。日本の高度成長期から大衆車の代名詞であり、世界ではなお同社のベストセラー車で、海外での人気も根強い。しかし国内では購入層が高齢化し、ブランド存続を懸念する声も出ている。

若者の心をつかむ車として新たな活路を開けるかどうか。生き残りへの正念場を迎えている。

<セダン購入者平均年齢は70歳近く>

カローラは1966年11月5日の発売以来、世界累計販売が約4400万台と最も売れているトヨタ車だ。昨年はトヨタ単体の販売台数の約15%を占めた。国内では2001年まで33年連続で年間販売首位、「50歳」になった今もトップ10入りの常連だ。昨年の国内販売は前年比4.6%減の10万9027台と、ピークだった73年の約4分の1にとどまるが、4位に食い込んだ。

カローラの将来に向けた悩みの一つが、顧客の高齢化だ。シリーズ販売台数の約40%を構成するセダンでは、現行モデル11代目の購入者の平均年齢は69歳。カローラを何台も買い替え、長く乗り継いできた顧客が多い。

カローラには乗り心地や操作性、維持費などあらゆる面で80点以上の顧客満足度を確保し、90点以上もいくつかある「80点主義+アルファ」という開発理念がある。この理念を具現化し続けてきた完成度の高い車だ。

しかし、高度経済成長とともに豊かさを実感したサラリーマンたちが自分にも手が届く車としてカローラを買った時代はすでに去った。トヨタカローラ徳島(徳島県)の北島義貴会長は、これからも手ごろな価格で安全・環境装備が充実した車として存在感を示し続け、「今よりも若いユーザーが求める車にしてほしい」と切望する。

<薄れる存在感>

これまでも購入層の若返りに努めてきた。00年に投入したワゴンタイプの「フィールダー」は若い子育て世代に評価され、CMにアイドルの木村拓哉さんも起用。20―30代の顧客も増え、今ではシリーズ全体の販売台数の60%以上を占める。

ただ「カローラというブランド自体を知らない若者もまだ多い」と、次期モデル12代目の開発責任者、小西良樹氏は危機感を募らせる。12代目は品質や性能はもちろん、「デザインも若者好みのかっこいい車を目指したい」と意欲を見せる。

とはいえ50年も生きれば勢いは落ち、その印象も薄れつつある。02年にホンダ<7267.T>の小型車「フィット」に連続年間販売首位のストップをかけられ、その後5年は奪還するも、08年には再びフィットに、09―12年はハイブリッド車(HV)「プリウス」に首位を奪われた。ここ数年はプリウスと11年登場のHV「アクア」との身内2車種に後塵を拝す状況が続いている。

小西氏は「カローラには技術を大衆化する役割もある」と、大衆車の看板は譲らない覚悟だ。歴代開発責任者も「自動運転、燃料電池など時代に応じて進化する新技術を常に先取りし、大衆車として広めてほしい」(10、11代目担当の藤田博也氏)との思いを寄せる。

<「持つ喜び」のある車に>

「カローラのような大衆車が活躍する時代は長くは続かないかもしれない」――。名車フェラーリなどのデザインを手がけ、最近では新幹線などの鉄道にも取り組む工業デザイナーの奥山清行氏は近い将来をこう予想する。

IT企業の巨人グーグルや配車アプリ最大手ウーバーテクノロジーズなどが自動車産業に参入、移動手段としての自動運転車やライドシェア(相乗り)が脚光を浴びている。これらの普及で車の「所有」から「利用」への動きが強まれば、自動運転タクシーのような公共交通手段としての車か、富裕層向け高級車に二極化すると同氏はみる。

10、11代目の開発を担当したトヨタの安井慎二常務理事は、カローラをライドシェアの車として使ってもらうことも「あるかもしれない」という。また、法人向け販売という収益源もある。だが「それだけでは生き残れない。持つ喜びを感じてもらう車としても提供しなければいけない」と強調する。

<DNAにこだわらず>

海外での悩みもある。カローラはトヨタ車で最も海外での現地化が進んでおり、世界16拠点で生産。154カ国・地域で販売され、昨年の販売台数約134万台のうち9割以上が海外だ。ただ、仕様や売り出し方は世界共通ではない。中国では中間層向けファミリー車、ブラジルやタイでは富裕層向け高級車などと狙いが異なる。いかに量販車としての効率も追求しつつ、現地の多種多様なニーズに応えるかが課題だ。

「DNAにこだわる必要はない」。現トヨタ顧問で2、3代目を担当した佐々木紫郎氏は言う。大衆車として成長したカローラが次の50年の歴史を作るには、これまで追求してきた「チャレンジ精神」を通して、新たな基軸を打ち出す必要がありそうだ。

*本文中の表現を修正しました。

(白木真紀  編集:北松克朗)

ロイター
Copyright (C) 2016 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=ダウ6連騰、S&Pは横ばい 長期金利

ビジネス

エアビー、第1四半期は増収増益 見通し期待外れで株

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、金利見通しを巡り 円は3日

ビジネス

EXCLUSIVE-米検察、テスラを詐欺の疑いで調
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    習近平が5年ぶり欧州訪問も「地政学的な緊張」は増すばかり

  • 4

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 5

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 6

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 7

    迫り来る「巨大竜巻」から逃げる家族が奇跡的に救出…

  • 8

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中