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焦点:日銀内で交錯する物価の強弱感、2%達成は視界不良続く

2015年07月15日(水)23時10分

7月15日、日銀内で物価の先行きに対する強弱感が交錯していることがわかった。日銀が15日に公表した消費者物価は下方修正。だが、食品などを中心にした上振れの動きを注視する見方もあり、日銀は今後の為替動向などもにらみながら上振れと下振れの両方向に注意を払うことになりそうだ。写真は同日、東京の日銀本店前で(2015年 ロイター/Yuya Shino)

[東京 15日 ロイター] - 日銀内で物価の先行きに対する強弱感が交錯している。日銀が15日に公表した消費者物価(除く生鮮食品、コアCPI)は見通し期間の15、16、17年度いずれも0.1%ポイントずつ下方修正され、市場の目はCPIの下方バイアスに向きがち。だが、食品などを中心にした上振れの動きを注視する見方もあり、日銀は今後の為替動向などもにらみながら上振れと下振れの両方向に注意を払うことになりそうだ。

黒田東彦総裁はこの日の会見で、今回の金融政策決定会合の議論の中で「一部の委員が物価見通しについて、より慎重な見方を示した」と述べた。

一部の委員がどのような理由で物価見通しを修正したか明らかにしなかったが、この間に総裁ら執行部は、物価の基調は着実に改善していると指摘してきた。

BOJウオッチャーの一部では、基調を構成する需給ギャップや予想インフレ率に対する見方を慎重化させた可能性も否定できない、との声もある。

足元では、中国を初めとした世界経済の減速や、イラン核協議の合意などを背景に再び原油価格が軟調な展開に転じている。海外経済の減速とともに、短期的ではあるが物価の下押し圧力として意識されやすい材料が増えつつある印象だ。

一方、総裁は会見で、先行きの物価について、昨年夏場以降の原油価格急落の影響が減衰する今年秋口以降に「実際の物価上昇率はかなりのテンポで上昇していく可能性がある」とし、日銀が見通している2016年度前半の2%到達にあらためて自信を示した。

依然として物価見通しで日銀と市場とのかい離は大きいが、ここにきて円安や人件費上昇などのコストを企業が価格に転嫁する動きが進んでおり、日銀内では先行きの物価上昇に手応えを感じている向きも少なくない。

実際に足元のコアCPIはゼロ%程度の推移を続けているものの、食料品や耐久財、外食などで着実に価格転嫁が進んでいる。

黒田総裁が会見で言及した生鮮食品とエネルギーを除いた指標も、内閣府の試算では3カ月連続で上昇しており、5月には前年比プラス0.8%まで伸び率を高めている。

今後は米利上げ開始に伴ってさらに円安が進行する可能性がある。所得から支出という循環の強まりの中で、円安の進行が急激でなければ、一定の価格転嫁は可能との見方も日銀内部にはある。

市場では、日銀の物価見通し下振れによる秋以降の追加緩和観測も根強い。だが、現在は市場が予想していない材料で、物価が想定よりも上振れる可能性も否定できない。その上昇テンポが速ければ、長期金利の上昇にもつながる可能性が高まる。

日銀は両方向のリスクを注視するスタンスで臨むことになりそうだ。

(伊藤純夫 編集:田巻一彦)

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