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焦点:ホンダ再生に賭ける伊東社長、品質回復へ背水の陣

2015年02月21日(土)01時15分

 2月20日、度重なるリコールに苦しむホンダの再生に向け、伊東孝紳社長への重圧が一段と高まっている。ホンダのF1カー、本社で2013年撮影(2015年 ロイター/Issei Kato)

[東京 20日 ロイター] - 度重なるリコール(回収・無償修理)に苦しむホンダ<7267.T>の再生に向け、伊東孝紳社長への重圧が一段と高まっている。経営手腕への批判がくすぶる中、同社長は開発現場の改善や商品構成の削減などに着手、かつて描いた成長戦略も勢いを失いつつある。

過去最高益など好業績が目立つ自動車業界でホンダの苦境が続けば、社長に対する退陣圧力が強まる可能性もある。

「切り札だった技術が、逆に出てしまった」――。雪がしんしんと降り続く北海道旭川市内。今月上旬、同社が開いたメディア向けの会合にノーネクタイ姿で現れた伊東孝紳社長は、報道陣を前につぶやいた。

悔やんだのは、新しいハイブリッド(HV)技術を搭載した看板車種のリコール問題だ。2013年9月に発売した小型車「フィット」HVは翌10月から1年間で5度のリコール、同年12月発売の小型SUV(スポーツ型多目的車)「ヴェゼル」のHVは3度に及んだ。

主力車種で相次いだリコールは「社長による人災」との厳しい見方すら生んだ。タカタ<7312.T>製エアバッグによる大量リコールでも大きな打撃を受け、今期は前期比4%減の7200億円と3年ぶりの営業減益を見込む。

16年3月期(来期)業績は、発売がずれ込んだ国内の新車効果もあり、今期よりは改善するとの見方が強い。ロイター調査でも、来期の営業利益予想は8936億円と今期予想から24%伸びる。しかし、長期的な収益改善への道のりは平たんではなく、ホンダ車の信頼を大きく傷つけたタカタ問題もまだ原因究明にすら至っていない。

<開発現場の負担を軽減>

深手を負ったホンダをどう再生させるか。伊東社長はすでにいくつかの施策に着手している。

一つは、開発現場の負担軽減策だ。販売台数やコスト重視の中、社長自身にも「開発現場に相当な負荷をかけた」との認識がある。旭川での会合で、同社長は約2年半前に打ち出した17年3月期の世界販売目標600万台を取り下げると明言、「目標は規模感として示したものだったが、(社内外が)コミットとして動いていることは否定できない」と語り、忸怩(じくじ)たる思いをにじませた。

同社は世界の各市場の需要に対応するため、同一車種でエンジンなど複数の仕様を展開している。だが、こうした仕様の多さも開発現場への負担増につながっているとして、今後はその数を3―4年かけて約2割削減する。商品構成を簡素化し、開発現場の負担軽減や効率化を進め、品質改善につなげるためだ。

昨年11月には、四輪事業本部の品質改革担当役員も新設した。その役員として白羽の矢が立った福尾幸一専務執行役員は同研究所の副社長も兼務し、開発から量産まで一貫した品質対策の見直しに動いている。品質確認作業を入念にしたことで、今期に国内で販売を予定していた6車種の新車を4車種にとどめた。

<グローバルで融通し合う生産体制> 

もう一つの施策は、生産面での「グローバルな補完体制」(伊東社長)の構築だ。社長は12年の成長戦略発表時、北米やアジアなど世界を6地域に分け、現地で開発・生産し、現地のニーズにあった車を迅速に投入する「地産地消」を打ち出した。

今後は「地産地消」は基本としながらも、日本や海外でそれぞれ生産する車両の約2割は他地域に輸出できる体制を目指す。今期の国内販売は当初、過去最高の103万台を想定していたが、リコールに伴う発売遅延などで2度の下方修正を余儀なくされ、82万5000台まで落ち込んだ。

国内工場の稼働率を引き上げるため、今夏に欧州で販売する小型車「ジャズ(日本名フィット)」の生産は、現行のジャズを年4万台生産している英国工場から寄居工場(埼玉県寄居町)に切り替える。

<メガサプライヤー戦略は推進> 

伊東社長が進める再生策のなかで、難しいかじ取りが求められるのがサプライヤーとの関係見直しだ。同社長は6地域同時開発戦略の下、世界に工場を持つメガサプライヤーとの取引を増やす戦略にシフトしてきた。

しかし、フィットなどのリコールについては「阿吽(あうん)の呼吸が通じないメガサプライヤーとのやりとりが増えたことが一因」との指摘もある。これまで二人三脚でやってきたホンダ系列サプライヤーと距離を置くことに懸念を示す声も聞かれ、一部からはこうしたメガサプライヤー戦略が強い批判を浴びる形となった。

加えて、ホンダ車の約50%が搭載するタカタ製エアバッグの欠陥問題が大量リコールにつながり、大きな打撃となった。「重要な部品を一企業に依存するのは危ない」(伊東社長)として、タカタ以外からもエアバッグ基幹部品の採用を増やす方針だ。

メガサプライヤーと系列サプライヤーを、適材適所でどう活用するか。研究開発部門を担う本田技術研究所の社長を務める山本芳春ホンダ専務執行役員は、コストや効率、優れた技術力を求めるには「メガサプライヤーと付き合わざるを得ない」とする一方、系列サプライヤーとの関係も「得意技を生かして作ってくれることが、これからのホンダには必要」と話す。

「ビート」以来、約19年ぶりの軽スポーツカーとして今年4月に発売を予定する「S660」の生産は、系列サプライヤーの八千代工業<7298.T>が担当する。軽としては高めの200万円前後の価格ながら「すでに割り当て分は予約でいっぱい」(系列販売店)という。

<チャレンジの年に重い経営課題>

伊東社長はフィットなどのリコールを受けて、昨年10月には自らを含め13人の役員報酬の一部返上を発表、一連の品質問題にけじめをつけた格好だ。しかし、社長の進退を問う議論も起きており、複数の関係者によれば、退職した一部の元幹部の間で社長交代を画策する動きもある。一方、サプライヤー改革などに取り組む伊東社長の意思は固く、一部の元首脳も出席した最近の会議では自ら改革推進を断言したという。

社長の決意とは裏腹に、改革がどこまで期待どおりの効果を上げるかはまだ未知数だ。アドバンストリサーチジャパンの遠藤功治アナリストは「タカタ問題はホンダにとって災難だったが、自社による品質問題が再び起きるともう次は後がない」と指摘、「今回出てきた策はほんの一部なのだろうが、根本的な解決策というにはまだ不十分という印象もある」と話す。

また、「対策の効果が完成車に現れるまでには、年数がかかるだろう。これで本当に品質問題に終止符を打てるかどうかの判断には、まだ時間がかかる」との見方を示している。

今年は、ホンダの「チャレンジを象徴する」(伊東社長)2つの事業が本格的に動き出す。小型ジェット機「ホンダジェット」は4月に日本でお披露目飛行を行い、自動車レースの最高峰F1に7年ぶりの復帰を果たす。航空機もF1も、創業者の故・本田宗一郎氏の強い意志で始めた思い入れのある事業だ。ホンダの社史に残る記念すべき年に、同社再生という重い課題が伊東社長の肩にのしかかっている。

*第2段落中の表現を手直しして再送しました。

(白木真紀 編集:北松克朗)

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