コラム

国内事情を優先する観光庁のピンボケ具合

2012年11月05日(月)09時00分

今週のコラムニスト:レジス・アルノー

〔10月31日号掲載〕

 ニューズウィークに寄稿すると、実に大きな反響がある。昨年8月、私はこのコラムで人気グループ「嵐」を起用した観光庁のキャンペーンを批判した(「嵐がニャーと鳴く国に外国人は来たがらない」)。すると今年の夏、何と観光庁を統括する国土交通省からお呼びが掛かり、次のキャンペーンへの意見を求められた。記者も同席する公の会合だったから、ここで書いても差し支えないだろう。

 国全体が鎖国状態にあるような状況下で日本に来てくださいと海外に宣伝するのだから、確かに観光庁もツライ立場にある。私が参加した会合の数日前には当の国交省の羽田雄一郎大臣が靖国神社を参拝し、誘致したいはずの中国、韓国の人々を怒らせた。観光業が振るわない責任を、観光庁だけに押し付けるのは理不尽だろう。

 とはいえ、日本を観光立国にできるような名案は今回の会合でも出なかった。広告代理店はスローガンを5つ提案したが、うち4つは同じネタの使い回し。「シンプルな楽しみ。ユニークな宝」「ユニークな宝。シンプルな楽しみ」という具合だ。観光庁はこの見事なアイデアに、どれだけの金を支払ったのだろう。

 最大の問題は、観光庁の目が外国人ではなく国内を向いていること。観光客の視点に立つというより、観光地ありきで物事を進める。その何よりの証拠が、キャンペーンの目玉に選ばれた観光地だ。

 私なら、どこを選ぶだろう。ちょうど取材で九州を旅行してきたばかりだったから、アイデアはどんどん湧いた。

■被災地の支援と観光誘致は別

 英情報誌モノクルで「世界で最も住みやすい25都市」の1つに選ばれた福岡がいいだろうか。雲仙や長崎も捨て難い。長崎では、江戸時代にオランダ貿易の拠点だった出島が復元されている。

 キリシタンの歴史を秘めた平戸もいい。日本に住んだ最初のイギリス人、三浦按針ことウィリアム・アダムズや、日本に住んだ最初のフランス人、フランソワ・カロンが働いた町でもある。アダムズの生涯はジェームズ・クラベルの小説『将軍』のモデルとなり、TVドラマとして人気を博し、ミュージカルやゲームまで作られた。平戸が世界的に有名なことに気付いていないのは、日本人だけ。島原や長崎に残るキリシタンの歴史遺産も、もっと注目されていいはずだ。

 徳島市の阿波踊りを「日本版リオのカーニバル」としてPRする手もある。10万人が踊る世界最大級の祭りが海外で知られないのは、宝の持ち腐れだ。

 あるいは35カ国以上で製作・放映されている料理コンテスト番組『マスターシェフ』の日本版を企画してはどうか。世界から挑戦者を集めて懐石料理の腕を競わせれば、日本の女の子しか見ない嵐の映像より注目を集めるだろう。

 観光庁の今年度予算は103億円だが、どうやら観光庁はその使い道を自由には決められないらしい。今回、PRキャンペーンの目玉に選ばれたのは東北地方だった。これは純粋な観光地選びというより、財務省による政治的判断も働いた結果だと考えられる。

 東北を支援したいという財務省の善意は立派だし、確かに東北には名所がたくさんある。けれども東北は外国人観光客、特に初めて日本に来る外国人にイチ押しで薦められる観光地ではない。東北は自然の脅威と恵み、そこに住む人々のたくましさを感じる場所。震災で甚大な被害を被ったのは非常に残念だが、それが東北を日本で最も楽しい観光地だと外国人に売り込む理由にはならない。

 日本に暮らして17年。私を訪ねて来た友人や親戚は一様に、日本に驚嘆して帰った。生涯最高の旅だったと喜ぶ友人も多い。日本にとって最高の観光大使はこうした人々だ。政府は原点に立ち返り、旅行者を最優先に考えたほうがいい。「お客様は神様」なのだから。

プロフィール

東京に住む外国人によるリレーコラム

・マーティ・フリードマン(ミュージシャン)
・マイケル・プロンコ(明治学院大学教授)
・李小牧(歌舞伎町案内人)
・クォン・ヨンソク(一橋大学准教授)
・レジス・アルノー(仏フィガロ紙記者)
・ジャレド・ブレイタマン(デザイン人類学者)
・アズビー・ブラウン(金沢工業大学准教授)
・コリン・ジョイス(フリージャーナリスト)
・ジェームズ・ファーラー(上智大学教授)

ニュース速報

ビジネス

訂正-ドル111円付近で上値重い、引き続き米FBI

ビジネス

日経平均は3日ぶり反落、米政治情勢・英爆発事件が重

ワールド

中国、北朝鮮に安保理決議違反やめるよう促す 「当事

ワールド

仏大統領、ロシア大統領と初会談へ 29日にパリで

MAGAZINE

特集:トランプの陰謀

2017-5・30号(5/23発売)

アメリカを再び揺るがす大統領側近たちの策謀──。「ロシアゲート」はウォーターゲート事件と同じ展開になるか

グローバル人材を目指す

人気ランキング

  • 1

    トランプ政権のスタッフが転職先を探し始めた

  • 2

    ヤマト値上げが裏目に? 運送会社化するアマゾン

  • 3

    「最大で178万円」高騰する北朝鮮からの脱出費用

  • 4

    給食費未納の問題を「払わない=悪」で捉えるな

  • 5

    「折れない心」を持っている人には、信頼できる人間…

  • 6

    初外遊の憂鬱、トランプはアメリカ料理しか食べられ…

  • 7

    細菌の感染ルートを探るには、お札を追え!

  • 8

    プーチンを脅かす満身創痍の男

  • 9

    菅官房長官「共謀罪法案の人権報告書簡に抗議」 国連…

  • 10

    「やっちゃだめ」を全部やっちゃうトランプ大統領

  • 1

    ニクソンより深刻な罪を犯したトランプは辞任する

  • 2

    トヨタとホンダをまねた中国自動車メーカーが躍進!

  • 3

    初外遊の憂鬱、トランプはアメリカ料理しか食べられない!

  • 4

    トランプ、最高機密をロシア外相らに話して自慢

  • 5

    共和党はなぜトランプを見限らないのか

  • 6

    「これでトランプを終わらせる」マイケル・ムーアが…

  • 7

    習近平の顔に泥!--北朝鮮ミサイル、どの国への挑戦…

  • 8

    トランプ政権のスタッフが転職先を探し始めた

  • 9

    日本はAIIBに参加すべきではない--中国の巨大化に手…

  • 10

    トランプのエルサレム訪問に恐れおののくイスラエル

  • 1

    25日に何も起こらなくても、北朝鮮「核危機」は再発する

  • 2

    ディズニーランド「ファストパス」で待ち時間は短くならない

  • 3

    ロシア軍が北朝鮮に向け装備移動か 大統領府はコメント拒否

  • 4

    北朝鮮ミサイル実験「失敗」の真相

  • 5

    北朝鮮ミサイル攻撃を警戒、日本で核シェルターの需…

  • 6

    北朝鮮をかばい続けてきた中国が今、態度を急変させ…

  • 7

    性的欲望をかきたてるものは人によってこんなに違う

  • 8

    シャチがホホジロザメを餌にし始めた

  • 9

    性科学は1886年に誕生したが、今でもセックスは謎だ…

  • 10

    「いま米軍が撃てば金正恩たちは全滅するのに」北朝…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

日本再発見 「外国人から見たニッポンの不思議」
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版 別冊

0歳からの教育 知育諞

絶賛発売中!