コラム

世界初、イギリスで「イヌ用培養肉」販売開始 開発経緯と、事前アンケートの「意外な結果」とは?

2025年02月28日(金)22時35分
イヌ

(写真はイメージです) sergey kolesnikov-Shutterstock

<「培養肉」と日本で広まりつつある「代替肉」とはどう違うのか。将来的には猫用も? 培養肉ペットフードについて概観する>

2025年2月、世界初の「培養肉ペットフード」の店頭販売がイギリスで始まりました。

培養肉とは動物細胞から人工的に作った食用肉のことです。今回、ロンドンの企業「ミートリー(Meatly)」が開発、販売した犬用おやつ「チックバイツ(Chick Bites)」は、鶏卵から採取した細胞を培養した培養肉と栄養素を補完するための植物性材料とを組み合わせたものです。

日本では「歴史の浅い人工食品を愛犬に食べさせる」と考えた時、躊躇する飼い主も少なくないかもしれません。けれど、イギリスでは「ペットに培養肉を与えること」は私たちの予想を超えて受け入れられているという研究もあります。

培養肉ペットフードはどのような経緯で開発されたのでしょうか。イギリスではどれくらいの割合の人が、培養肉を受け入れているのでしょうか。概観してみましょう。

「培養肉」は「代替肉」の違い

「培養肉」は「代替肉」と混同されがちです。

どちらも「天然の食肉の代わりとして作られた食品」ではありますが、代替肉は「植物性の原料から作った肉に似せた食品」のことで、「大豆ミート」がよく知られています。簡単にいえば、ヴィーガン(完全菜食主義者、動物性食品を口にしないライフスタイル)も食べられるのが代替肉、動物性なので拒まれるのが培養肉です。代替肉を使った料理や冷凍食品は、日本でも徐々に広まっています。

一方、培養肉(細胞性食品)に関しては、日本の規制当局はまだ慎重な姿勢を見せています。世界的に見ても、規制当局が人間用として培養肉を承認している国はシンガポール、イスラエル、アメリカだけで、ペットフードとして承認している国はイギリスのみです。

しかし、アメリカ・フロリダ州では州内での培養肉の生産・販売を禁止する法律「Senate Bill 1084」が24年7月に施行されたり、EU諸国でもオーストリアやフランス、イタリアでは培養肉に対する慎重な態度を崩さなかったりと、米国内や欧米諸国でも足並みは揃っていません。なお、イギリスでも人間用の培養肉はまだ承認されておらず、培養肉の世界的な普及にはまだ時間がかかりそうです。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

BRICS首脳会議、ガザ・イランへの攻撃非難 世界

ビジネス

日産、台湾・鴻海と追浜工場の共同利用を協議 EV生

ワールド

マスク氏新党結成「ばかげている」、トランプ氏が一蹴

ワールド

米、複数の通商合意に近づく 近日発表へ=ベセント財
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗」...意図的? 現場写真が「賢い」と話題に
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    コンプレックスだった「鼻」の整形手術を受けた女性…
  • 7
    「シベリアのイエス」に懲役12年の刑...辺境地帯で集…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 10
    ギネスが大流行? エールとラガーの格差って? 知…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 6
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 7
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 10
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story