コラム

倫理をAIで科学する エクサウィザーズ社長石山洸

2018年03月16日(金)19時30分

AIを用いた認知症ケアに取り組む石山 akindo-iStock.

AI新聞より転載

道具や技術は、人を幸せにも不幸にもできる。ハサミでも原子力でもそれは同じで、その効力が大きい道具ほど悪いことに使われると被害も大きくなる。GoogleのCEOのサンダー・ピチャイ氏は、AIは火や電気よりも人類に大きな影響を与えるだろうと語っている。そこまで大きな影響を人類に与えるというAIを使って、人間の倫理観を高めることはできるのだろうか。倫理なきAI の発展が人類を滅亡に導くと指摘される中、株式会社エクサウィザーズ取締役社長の石山洸氏に倫理に対するAI の可能性について聞いてみた。

囚人のジレンマを数理モデルに

──AIって進化すると危険だという意見があります。AIを使って世界を征服することが可能になるかもしれないからです。なのでAIを進化させるのであれば、AIの進化に伴って人類も進化しないといけないと思うんです。特に倫理観を高めていく必要があると思うんですよね。

石山
そう思いますね。

──でも倫理観ってどうやれば高めることができるんでしょうか。何かAI自体が人間の人格成長に寄与するようになるのではないかなって、漠然と考えています。そういうことって可能でしょうか?ずばり聞きますがAIは人間の倫理観を高めることができますか?

石山 直球ですね(笑)。できるような気はします。ただ倫理観って定義が難しく、定義が難しいものを数理モデルに落とし込むことは非常に困難です。なのでまずは倫理観の一部、信頼関係についてモデル化できないだろうか考えています。

──モデル化できるんですか?

石山 「囚人のジレンマ」という話をご存知ですか?囚人のジレンマのようなよく知られた概念からモデル化を始めて、徐々にAI的な要素を入れながら拡張して考えると、わかりやすいかもしれません。

──二人の囚人に自白を迫るという話ですね。

石山 そうです。二人の囚人を別々の独房に入れておいて、それぞれを別々に尋問するんです。その際に「お前が相棒のやったことを教えてくれれば、お前の罪は許してやろう」とオファーするわけですよ。

ーー二人がともに黙っていれば罪に問われないかもしれないのに、相手が自白して自分が自白しないと自分だけが損をする。相手との信頼関係を信じるべきか信じないべきか。まさにジレンマですね。

石山 互いを信頼していると、やったことはバレずにすむ。信頼していないと、互いに密告し合って最悪の事態に陥るんです。

この研究の延長で、TMS(経頭蓋磁気刺激法)を囚人のジレンマと組み合わせた研究があります。TMSは現在、うつ病の治療にも活用されていて、磁気を脳の扁桃体の部分に当てると、うつの症状が緩和すると言われています。この研究では、囚人のジレンマのようなシチュエーションを作って、TMSで磁気を当てた人と当てなかった人の間で協調関係がどう変化するかを調べたそうなんです。実験の結果を言うと、TMSを扁桃体に当てると、囚人のジレンマで有意に協調関係が増えたらしんです。

──おもしろいですね。TMSという脳への磁気の直接的な刺激が、「協調したい」という意思を生み、人との関係性を変えたわけですね。

石山 そうです。脳への刺激は「生物学的(バイオ)」、意識の変化は「心理学的(サイコ)」、人との関係性は「社会学的(ソーシャル)」なものですが、バイオの刺激がサイコ、ソーシャルに変化を与えたわけです。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:アルゼンチン止まらぬ物価高、隣国の町もゴ

ビジネス

アングル:肥満症薬に熱視線、30年代初頭までに世界

ワールド

イスラエル、新休戦案を提示 米大統領が発表 ハマス

ビジネス

米国株式市場=ダウ急反発、574ドル高 インフレ指
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
2024年6月 4日号(5/28発売)

強硬派・ライシ大統領の突然の死はイスラム神権政治と中東の戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    F-16はまだか?スウェーデン製グリペン戦闘機の引き渡しも一時停止に

  • 2

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入、強烈な爆発で「木端微塵」に...ウクライナが映像公開

  • 3

    「ポリコレ」ディズニーに猛反発...保守派が制作する、もう1つの『白雪姫』とは

  • 4

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 5

    インドで「性暴力を受けた」、旅行者の告発が相次ぐ.…

  • 6

    「人間の密輸」に手を染める10代がアメリカで急増...…

  • 7

    ロシアT-90戦車を大破させたウクライナ軍ドローン「…

  • 8

    「集中力続かない」「ミスが増えた」...メンタル不調…

  • 9

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像を…

  • 10

    米女性の「日焼け」の形に、米ネットユーザーが大騒…

  • 1

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 2

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 3

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃がのろけた「結婚の決め手」とは

  • 4

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲー…

  • 5

    ハイマースに次ぐウクライナ軍の強い味方、長射程で…

  • 6

    仕事量も給料も減らさない「週4勤務」移行、アメリカ…

  • 7

    都知事選の候補者は東京の2つの課題から逃げるな

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    少子化が深刻化しているのは、もしかしてこれも理由?

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 8

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 9

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 10

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像を…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story