コラム

日本赤軍からコロナ給付金詐欺まで、「意識の高い若者」はどこで間違えるのか

2022年06月10日(金)11時27分
若者

ViewApart-iStock.

<一部の若者が「意識の高さ」から国家を侮蔑し、法を侵すのはいつの時代も同じ。国際テロから仮想通貨へと彼らの関心が移ろい、平和になった社会で失われたものとは?>

約半世紀を挟んだ2人の「海外逃亡犯」のニュースに接して、少しめまいがしている。

1人目は5月28日に刑期の満了が報じられた、元・日本赤軍幹部の重信房子氏だ。1971年ごろから中東(主にパレスチナ)へと出国してゲリラ活動を繰り広げ、逮捕されたのは偽造旅券での帰国・潜伏が判明した2000年である。

服役に至った犯罪は、1974年のハーグ事件(オランダでの仏大使館占拠・人質事件)。当時から「美貌の女闘士」として知られた彼女の出獄には、奇妙に多くのマスコミが詰めかけ、元テロリストを芸能人扱いするのはおかしいとの批判も招いている。

2人目は、国税庁の職員が逮捕されて目下騒然となっている、コロナ持続化給付金の詐取事件だ。犯行グループの全容は未詳だが、「『リーダー』とみられる31歳の男は、今年2月にドバイへ出国している」と報じられている(ABEMA TIMES 、6月3日)。

めまいがしたのは、時代も動機もことごとく好一対の2つの事件が、一方でその「担い手たちの性格や自意識」の面では、不思議と重なっても見えるからだ。

重信氏らが結成した日本赤軍は、70年安保と呼ばれた学生運動の季節が生んだ、極左の中の「最過激派」だった。いま風にいえば「グローバル」な問題意識の下で世界同時革命を謳い、国際的な活動を志向した。

海外の訓練キャンプに参加し、実際にテロを起こした彼らほど極端ではなくても、「同志」との共同生活を通じて連帯感を養い、思想的なミニグループを営みつつ暮らすあり方は、半世紀前の青年層ではそれなりに見られたものだ。

対して2020年代の詐欺グループは平素、「トレードオンラインサロン」や「マイニングエクスプレス」といったネットの投資家集団を自称していた。仮想通貨の勉強会のような体裁をとりつつ、個人事業主を装って給付金を詐取するノウハウを普及していたらしい。

問題の国税庁職員はあえて広い間取りにルームシェアで住み、ディスプレイが並ぶトレード部屋も設けていたという(日テレNEWS 、6月3日)。彼も含めここまでの逮捕者はみな20代で、背伸びしたビジネス志向の大学生・高校生を狙い「給付金で投資を始めよう」などと勧誘していたようだ。

揶揄も交えて「意識高い系」と呼ばれるライフスタイルの若年層が起こしたのが、実に意識の低い公金詐取だったわけだが、思えば往年の極左学生たちも、本人の主観としては「元祖・意識高い系」だったろう。掲げるビジョンの雄渾さと、実行した犯罪の卑小さのギャップが際立つ点も同じだ。

いつの時代にも、平穏な日常に埋没できずに自意識を肥大させ、結果的に道を誤る若者はいる。ただし2つのグループが「どの方向へと」誤っていったのか、その違いには、冷戦半ば以来の半世紀という時間の裂け目が顔をのぞかせる。

プロフィール

與那覇 潤

(よなは・じゅん)
評論家。1979年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科で博士号取得後、2007~17年まで地方公立大学准教授。当時の専門は日本近現代史で、講義録に『中国化する日本』『日本人はなぜ存在するか』。病気と離職の体験を基にした著書に『知性は死なない』『心を病んだらいけないの?』(共著、第19回小林秀雄賞)。直近の同時代史を描く2021年刊の『平成史』を最後に、歴史学者の呼称を放棄した。2022年5月14日に最新刊『過剰可視化社会』(PHP新書)を上梓。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

G7首脳会議、課題解決難航か 支持率低迷など国内問

ワールド

米のガザ停戦案、ハマス「前向きに回答」 イスラエル

ビジネス

国内企業物価5月は前年比2.4%に伸び加速、電気代

ビジネス

インド電動二輪オラがIPOの承認獲得 7月上場目指
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:姿なき侵略者 中国
特集:姿なき侵略者 中国
2024年6月18日号(6/11発売)

アメリカの「裏庭」カリブ海のリゾート地やニューヨークで影響力工作を拡大する中国の深謀遠慮

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思っていた...」55歳退官で年収750万円が200万円に激減の現実

  • 2

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車の猛攻で、ロシア兵が装甲車から「転げ落ちる」瞬間

  • 3

    「クマvsワニ」を川で激撮...衝撃の対決シーンも一瞬で決着 「圧倒的勝者」はどっち?

  • 4

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃が妊娠発表後、初めて公の場…

  • 5

    認知症の予防や脳の老化防止に効果的な食材は何か...…

  • 6

    長距離ドローンがロシア奥深くに「退避」していたSU-…

  • 7

    たった1日10分の筋トレが人生を変える...大人になっ…

  • 8

    堅い「甲羅」がご自慢のロシア亀戦車...兵士の「うっ…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 10

    【衛星画像】北朝鮮が非武装地帯沿いの森林を切り開…

  • 1

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が34歳の誕生日を愛娘と祝う...公式写真が話題に

  • 2

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 3

    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車が、平原進むロシアの装甲車2台を「爆破」する決定的瞬間

  • 4

    認知症の予防や脳の老化防止に効果的な食材は何か...…

  • 5

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思ってい…

  • 6

    カラスは「数を声に出して数えられる」ことが明らか…

  • 7

    堅い「甲羅」がご自慢のロシア亀戦車...兵士の「うっ…

  • 8

    アメリカで話題、意識高い系へのカウンター「贅沢品…

  • 9

    「クマvsワニ」を川で激撮...衝撃の対決シーンも一瞬…

  • 10

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 4

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…

  • 5

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 6

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 9

    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 10

    認知症の予防や脳の老化防止に効果的な食材は何か...…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story