コラム

あまりに愚か...岸田首相の長男「情報漏洩」疑惑、トランプ時代の米国でもあり得なかった訳

2023年03月11日(土)20時37分
岸田文雄首相

岸田文雄首相(3月10日) Kim Kyung-Hoon-Reuters

<岸田首相の長男・翔太郎氏は国家の重要情報をメディアに漏らしていた疑惑を持たれているが、そもそもの問題はそれを可能にする制度だ>

最近、日本では世襲や二世議員が話題になっていた。

というのも、2月3日に自民党の岸信夫総理大臣補佐官が、体調不良を理由に衆議院に議員辞職願を提出し、その前には、「このあたりで信千世に譲りたい」と長男に山口県の地盤を譲る「世襲」をすると報じられていたからだ。

■トランプ元大統領でも受け入れていた...岸田首相が見習うべき、国のために働くなら当たり前のこと

しかも跡を継ぐ岸信千代氏が、公式サイトに家系図を掲載したことを叩かれたり、ホームページで余計な情報を入力させられるなどの批判が相次いだ。そんな批判も、彼が世襲だからに他ならない。

そんな話題の前には、2022年10月に首相秘書官(政務担当)になった岸田文雄首相の長男の岸田翔太郎氏が批判を浴びていた。首相の息子で、おそらく岸田首相の後継者になる可能性が高いということを考えると注目されるのは仕方がない。

ファッションデザイナーのドン小西にファッションチェックされて「若い2代目社長とか代理店や外資系金融の社員が、よく着るスーツだよね」と指摘されたり、首相の海外訪問時に公用車を使って個人的に観光したとの疑惑が取り沙汰されたりと話題になった。

特に看過できないのが「情報漏洩疑惑」の問題

ただそんな中でも看過できないのが、「情報漏洩疑惑」の問題だ。閣僚の辞任情報や、外国首脳との会談についての情報が、メディアに漏洩していた可能性があると指摘され、その情報をメディアに漏らしていたのが、岸田翔太郎氏だったというのである。これが事実であれば、情報管理や危機管理の甘さが糾弾されても仕方がないと言える。

そもそもの問題は首相に関する重要な機密である情報を、最近外部から入ってきたばかりの秘書官である長男に触れさせていることだろう。防衛関係の機密情報も長男の耳に入っているようであれば情報管理が心配される。

この話で思い出すのが、アメリカのドナルド・トランプ前政権のアメリカの情報管理についてである。前大統領自身は2022年8月にFBI(連邦捜査局)から家宅捜索を受けて、個人的に自宅に機密書類を隠し持っていたことが判明して大騒動になっている。もっともこれは機密情報に自在にアクセスできる最高権力者である大統領だったからできたことだ。

だがそんなトランプでも、2017年1月の大統領就任後に大統領上級顧問に登用した娘婿のジャレッド・クシュナーについては機密情報にアクセスさせることができなかった。なぜならトランプ政権で、国土安全保障長官から大統領首席補佐官を務めていたジョン・ケリーなどが、素人であるクシュナーに機密情報に触れさせる「セキュリティクリアランス」を与える許可を出さなかったからだ。

トランプは何度もクリアランスを与えるよう要請したが、結局、クシュナーにクリアランスが与えられるまで2年ほどを要している。しかも、クリアランスを与えるかどうかの調査などもきっちりと行われている。

日本にはこうしたセキュリティクリアランス制度もないために、首相の周辺で秘書の個人的判断で情報が漏れている。これもまた「世襲」の悪影響かもしれない。政治家には是非とも地盤維持や選挙対策ではなく、日本国民の安全と繁栄を第一にする政治をしていただきたい。

情報漏洩とセキュリティクリアランスについてのさらに詳しい解説は「スパイチャンネル~山田敏弘」の「怒!二世議員問題 息子から情報ダダ漏れとはどういう事だ!」をぜひご覧いただきたい。

プロフィール

山田敏弘

国際情勢アナリスト、国際ジャーナリスト、日本大学客員研究員。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版、MIT(マサチューセッツ工科大学)フルブライトフェローを経てフリーに。クーリエ・ジャポンITメディア・ビジネスオンライン、ニューズウィーク日本版、Forbes JAPANなどのサイトでコラム連載中。著書に『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』、『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』、『CIAスパイ養成官』、『サイバー戦争の今』、『世界のスパイから喰いモノにされる日本』、『死体格差 異状死17万人の衝撃』。最新刊は『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』。
twitter.com/yamadajour
YouTube「スパイチャンネル」
筆者の過去記事一覧はこちら

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 7

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 8

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 8

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story