コラム

「プーチン大失敗」は、もはや自明...米英の諜報機関による「ロシアの現状分析」

2022年08月03日(水)17時43分
CIAバーンズ長官

スパイチャンネル〜山田敏弘〜/YouTube

<ロシアが勝利することはもうないが、プーチンは健康すぎると口を揃える──。CIAとMI6の長官が語ったウクライナ戦争の現状>

長期化するロシアのウクライナ侵攻。攻防は続いており、大量の難民も生んでいる。こうした軍事的な争いは、ウクライナのゼレンスキー大統領が述べてきた通り、交渉によって終わらせるしかない。

ただロシア側の姿勢も少し変化が見られる。例えば、ロシア軍が黒海を封鎖していたことでウクライナから農産物の輸出ができなくなっていたが、ロシアは穀物の輸出を許すことで合意し、8月1日にトウモロコシを乗せた第一便が出港している。

またプーチン大統領は8月1日、核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議に書簡を送り、「核戦争に勝者はいない」として核兵器は使うべきではないと主張している。

今後の行方が注目されるウクライナ情勢だが、今回の侵攻では、当初から情報戦の激しさが指摘されてきた。そもそもアメリカの情報機関の分析によって、米政府が2021年10月には「ロシアがウクライナに侵攻しようとしている」と主張していたことに注目が集まった。

その後も、アメリカのCIA(米中央情報局)やイギリスのMI6(秘密情報部)による情報リークや、ロシアのスパイ機関であるFSB(ロシア連邦保安庁)などの情報工作などが入り混じり、この侵攻のナラティブが作り上げられてきた。

7月22日、ワシントンDCに拠点を置くシンクタンク「アスペン研究所」が米コロラド州で「アスペン安全保障フォーラム」というイベントを開催した。著名な国際政治専門家や軍事関係者だけでなく、世界各地から元首脳なども参加して、議論が行われた。中国の秦剛駐米大使も登壇している。

その中で特に興味深かったのは、CIAのウィリアム・バーンズ長官と、MI6のリチャード・ムーア長官が、それぞれイベントに登壇して、現在のウクライナ情勢の最新事情を語ったことだった。

2人とも「プーチン重病説」を一蹴

バーンズ長官は、ウクライナの情報機関とは毎日のように連絡を取り合っていると認め、ロシアは侵攻前には簡単にウクライナに勝利できると誤った認識を持っていたと話した。しかも2021年10月にプーチンと会い、その時の印象を「まだ取り返しのつかないところまで行っていない」と、プーチンとの対話の後にバイデン大統領に伝えたとも語っている。

MI6のムーア長官は、プーチンは今回の侵攻に「失敗」しただけでなく、かなり苦しい状況に自らを追い込んだと述べている。

そして両者の発言でもっとも興味深かったのは、話がプーチンの健康状態に及んだ時だった。CIA長官も、MI6長官も、口を揃えて言う。プーチンの健康状態が悪いとは聞いていない、と。これまでメディアなどで話題になってきた「プーチン重病説」などを一蹴したのである。

両者はこれから先も、ロシアが勝利するのは難しいという認識で一致しているようだ。

この2人がそれぞれ、アスペン安全保障フォーラムでどんなことを語っているのか。「スパイチャンネル~山田敏弘」で、それぞれの発言を解説しているので、ぜひご覧いただきたい。

プロフィール

山田敏弘

国際情勢アナリスト、国際ジャーナリスト、日本大学客員研究員。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版、MIT(マサチューセッツ工科大学)フルブライトフェローを経てフリーに。クーリエ・ジャポンITメディア・ビジネスオンライン、ニューズウィーク日本版、Forbes JAPANなどのサイトでコラム連載中。著書に『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』、『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』、『CIAスパイ養成官』、『サイバー戦争の今』、『世界のスパイから喰いモノにされる日本』、『死体格差 異状死17万人の衝撃』。最新刊は『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』。
twitter.com/yamadajour
YouTube「スパイチャンネル」
筆者の過去記事一覧はこちら

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

利上げの可能性、物価上昇継続なら「非常に高い」=日

ワールド

アングル:ホームレス化の危機にAIが救いの手、米自

ワールド

アングル:印総選挙、LGBTQ活動家は失望 同性婚

ワールド

北朝鮮、黄海でミサイル発射実験=KCNA
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 4

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story