ドイツの街角から
ドイツ・ITBベルリン(国際旅行展)から見えた観光業界の今とこれから 価格高騰でも高まる旅行志向
世界最大級の国際旅行・観光業界の主要な出会いの場「ITBベルリン2023」展が3月上旬、ベルリンで開催された。コロナ禍により中止となってから3年ぶりにリアル会場で開催された同イベントの様子を紹介しながら、ドイツ観光業界の動きや課題を探った。(画像はすべて筆者撮影)
ITBベルリンから見えた観光業界の今
インフレ、物価高と庶民の生活を圧迫し続けるウクライナ戦争により観光業界は今、目覚ましく変転する世相に対応しなければならない。そこで旅行・観光産業界の最前線を知るべくITBベルリンへ出向いた。
この見本市の会場となったメッセ・ベルリン場内は、みぞれ雪の降る肌寒い外気とは対照に、熱気に満ち溢れていた。
ITBベルリン2023のメインテーマは、「「Mastering Transformation(変転を極める)」。3月7日から9日の3日間、リアルイベントを待ち望んでいたかのごとく、会場内では再会や交流に感動する様が笑い声と共に伝わってきた。
ITBとはInternationale Tourismus Börseの略。ツーリズム産業における豊富な商品とサービスが世界中から結集し、様々な会議やイベントが行われる国際的なトラベル・ツーリズム・トレードフェアとして知られる。通常ITBは毎年、ベルリンの他、インド、中国、シンガポールで開催されている。
ITBベルリンは例年3月に開催され、50年以上の歴史を持つ重要な世界的なツーリズムの見本市。ちなみにこのイベントは例年5日間開催され、後半の週末2日間は一般公開となる。180ヶ国以上の国からの10,000人を超えるビジネス参加者と1万社の出展者が集結する。また業界関係者約11万人と一般来場者約5万人の計16万人が来場。(2019年実績)。
会場南口に足を踏み入れると、ITBスタッフのお出迎え。持ち帰りできる無料ペットボトルと給水サービスは大変ありがたかった。持続可能性に対応し、お財布にも環境にも優しい配慮に長蛇の列。
今年は業界関係者のみを対象として開催された。161か国から約5,500社が出展し、180か国以上から業界関係者計9万人超が集結した。
ドイツ国内外から約3,000人のメディア関係者と330人以上の旅行ブロガー、さらに国際政治の場で活躍する著名人の参加もあり、メディアの関心も高かった。
公式ゲスト国はジョージア(グルジア)で、展示会場の多機能ホールHub27、ホール4.1、南エントランス、そして展示会場周辺で行われた多くのイベントを通じて、コーカサス地方の観光の多様性を印象づけた。出展会場Hub27では民族衣装を着た女性が出迎えてくれた。
何よりも対面のミーティングは業界の大きなニーズである。トップクラスのラインアップを揃え、世界的に著名なトップスピーカー400人が、デジタル化、人工知能など、最も緊急性の高いテーマや現在のトレンドについて、18のテーマトラックで合計200セッションを行い、幅広い専門性を提供した。世界有数の旅行業界のシンクタンクの講演、パネルディスカッションには、延べ24,000人が参加した。
世界的な市場の回復に喜びと期待感を抱きながらも、コロナパンデミックを克服した後の業界が巨大な課題(ウクライナ戦争によるインフレと物価高など)に直面していることも共通認識となった。
コロナ以前から、"business as usual "はもはや不可能であり、持続可能性のあらゆる側面との調和の中でこそ成長が必要であるとの声がさらに高まっていた。
観光における社会的責任の問題に対する認識を高めるために、パネルディスカッション、セミナー、講演会などを幅広く開催した。地域別では、特にアラブ地域からの出展が目立ち、大きな存在感を示していた。ドイツ観光局(DZT)の展示はゲスト国ジョージア(グルジア)と同じ会場の新しい多機能ホール「Hub27」に設けられていた。
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メッセ・ベルリン社は見本市とコングレスのプロのオーガナイザーとして、長い伝統と経験に裏打ちされたノウハウを蓄積してきた。首都ベルリンは東西ヨーロッパの政治、経済、文化が交差する十字路、現代と未来の国際マーケット・プレイスとして脚光を浴びている。メッセ・ベルリン社が管理運営する国際見本市会場とヨーロッパ最大の国際会議センターICC Berlinでは、年間を通して各界の重要な国際見本市や会議が開催されている。
次回のITBベルリンは、2024年3月5日(火)から7日(木)まで、メッセ・ベルリン会場にて開催される予定。
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ドイツ観光業界の2022年収支
著者プロフィール
- シュピッツナーゲル典子
ドイツ在住。国際ジャーナリスト協会会員。執筆テーマはビジネス、社会問題、医療、書籍業界、観光など。市場調査やコーディネートガイドとしても活動中。欧州住まいは人生の半分以上になった。夫の海外派遣で4年間家族と滞在したチェコ・プラハでは、コンサートとオベラに明け暮れた。長年ドイツ社会にどっぷり浸かっているためか、ドイツ人の視点で日本を観察しがち。一市民としての目線で見える日常をお伝えします。
Twitter: @spnoriko