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England Swings!

ラッシャー貴子|イギリス

ロンドンに暮らす色鮮やかな野生のインコ、パラキート

 パラキートは19世紀から野生化し始めた。最初は広大なリッチモンド・パークやキューガーデンのある南西ロンドンで、それから時間をかけてロンドン全体に広がっていった。特に1990年代から急増したと聞くと、温暖化も関係しているのかな、と思ってしまう。

 パラキートの野生化は世界各地でも見られるそうで、中にはスペインのように駆除を実施する国も出ている。けれど、英国では今のところ何もせずこのまま見守る方針だ。確かにちょっとした問題はあって、バードフィーダーに群れでやってくるパラキートが在来種の小さな鳥を蹴散らしてしまうし、巣作りの時期が早いパラキートのせいで他の鳥が巣作りしにくくなっている。それでも明らかな被害が確認されていないし、もうすでに数が多過ぎて対処しても効果が期待できないようなのだ。ナショナル・ジオグラフィック誌は、「英国人は動物好きだからパラキートを駆除したりしないだろう」とも言っている。

パラキートカレンダー - 1.jpeg

わが家で今年使っている英国のイラストレーターでライターのマシュー・ライスのカレンダーでは、10月にパラキートが紹介されていた。ここではパラキートの数を約5万羽と書かれているけれど、本文ではナショナル・グラフィック誌に掲載された3万羽という数を使った。筆者撮影

 わが家の窓の外をパラキートが通るのはたまにのことだし、たいてい一瞬で飛んでいってしまう。この記事を書くなら改めてパラキートを間近で見たいと思ったので、市内の公園に何度か通ってみた。確実に見られる場所はないので、運を天に任せてひたすら歩き回ったけれど、キーキーというにぎやかな声が聞こえるばかりで、黄緑色の鳥の姿はなかなか見られなかった。けれどもある晴れた秋の午後、ついにその時がやってきた。

 バッキンガム宮殿のすぐ目の前のセント・ジェームズ・パークでのことだ。ちょっとした人だかりの一角に、頭と肩に3羽の鳩をとめたおじさんがいるのが見えた(鳥好きにはおじさんが多いのかな)。近づいてみると、その鳩おじさんは手に持ったナッツをパラキートに食べさせている。それを見た人たちが周りに少しずつ集まって、写真や動画を撮ったり、同じように食べものでパラキートを呼び寄せたりし始めた。パラキートはずいぶん人に馴れていて、簡単に集まってきた。人の手や肩にとまったり、他の鳥と争って餌をつついたりするパラキートをただ眺める和やかな時間が過ぎた。5分ほどすると、鳩おじさんは鳩を肩にとめたままふらりとその場を去り、それを合図にするように、人々も紅葉の公園に散っていった。

パラキート縦 - 1.jpeg

セント・ジェームズ・パークで人が手に持った木の実を食べるパラキート。ロイヤル・パークでは本当は園内の動物への餌やりを禁止している。生態系を崩してしまうし、ゴミが出ることでネズミやカラスが増えるからだ。お楽しみもほどほどに、ですね。筆者撮影

 パラキートの飛行ルートや時間は毎日きっちり決まっていて、その習性はよく「まるで人が通勤するよう」と例えられる。それなのに、わが家のあたりに来るパラキートはどうもルートも時間もまちまちな気がする。不思議だねと夫に話したら、こんな答えが返ってきた。

「パラキートがすっかりこの街に馴染んだってことじゃない? ロンドンの通勤電車は来たり来なかったり、遅れたりストをしたり、めちゃくちゃ不規則なんだから」

*パラキートの習性や英国で繁殖していく過程が面白くて、今回はあれこれ資料を読み込んでしまった。中でもわかりやすくまとめられていたのは、ナショナル・ジオグラフィック誌のこの記事ガーディアン紙のこの記事自然史博物館のこの記事だった。英語のみですが、ご興味あったらリンクからぜひ!

 

Profile

著者プロフィール
ラッシャー貴子

ロンドン在住15年目の英語翻訳者、英国旅行ライター。共訳書『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』、訳書『Why on Earth アイスランド縦断記』、翻訳協力『アメリカの大学生が学んでいる伝え方の教科書』、『英語はもっとイディオムで話そう』など。違う文化や人の暮らしに興味あり。世界中から人が集まるコスモポリタンなロンドンの風景や出会った人たち、英国らしさ、日本人として考えることなどを綴ります。

ブログ:ロンドン 2人暮らし

Twitter:@lonlonsmile

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