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平野美紀|オーストラリア

オーストラリア、デジタルID法案が可決。何が変わる?

オーストラリア政府は「デジタルID」がどのようなものなのかを説明するイメージ動画を公開(オーストラリア政府 Australia's Digital ID System 公式YouTubeより)

今年3月に上院を通過して物議を醸してきた「デジタルID法案」が、5月16日に下院でも可決され、今年11月にも施行される見込みとなった。

このデジタルIDは、日本の「マイナンバー制度」と基本的には同じようなものではあるが、日本のように、今から様々な個人情報を紐づけしてデジタル化しようというわけではない。

というのも、オーストラリアでは2019年から既に、国民が各自のオンライン・アカウントを通じて政府関係機関と納税や各種申請などのやりとりを行うための「myGov ID」という個人IDシステムが運用されてきており、また、州によっては、州政府の公式アプリがデジタルIDとして機能し、身分証明として使用できるようになっていた。

このようにオーストラリアでは、IDのデジタル化はもう何年も前から始まっており、いまさら「デジタルID」と言われても「もう既にやってるよね?」と、何がどのように異なるのか、いまいちピンとこない人が多いようにも感じる。

全国統一デジタルIDへ

ニューサウスウェールズ州では、州政府のアプリに自動車運転免許を登録することで、デジタルIDとして利用することができるが、これは「myGov ID」と同じく2019年から運用されてきた。(参照

運転免許証のデジタル化は、2017年に南オーストラリア州が国内で初めて踏み切り、その2年後にニューサウスウェールズ州が追従。2023年10月にはクイーンズランド州、この5月にビクトリア州が導入を開始し、その他の州もこの動きに続く見込みだという。

連邦国家であるオーストラリアは、州政府毎に法や制度が異なるため、このように、デジタルID(身分証明書)として利用可能なデジタル免許証が導入されている州とされていない州が混在してきたのが現状だ。

今回の「デジタルID法」により、「myGov ID」に紐づけする形で全国的に統一されたIDが運用されることになれば、こうした状況は改善されるかもしれない。しかし、これは物理的なカードをデジタル化し、個人の身分証明として利用するようなものだけではないからこそ、物議を醸してきたといえる。

デジタルIDのメリットとデメリット

オーストラリア政府とこの法案の支持者らが、メリットのひとつとして強く主張するのが、個人のプライバシー情報の保護だ。

これまでは、さまざまな契約や申請の場面において、関係各所への個人情報の提出が必要だったが、バラバラな個人情報が一元化され、政府によって付与されたデジタルIDで本人確認がとれることになるため、わずらわしい書類の記入や確認書類の取り寄せなどが不要になるという。

これにより、オンライン取引の安全性も確保され、昨今、世界的に問題となっている個人情報漏洩リスクが減り、詐欺やハッキングなどの被害も減少。簡単で安全、便利を謳うが...

デジタルID法は、メリットばかりではないという声も聞こえてくる。

スカイニュースの司会者ローワン・ディーン氏は、「(デジタルID法案の可決は)オーストラリアにとって『恥』」だと、オーストラリア政府を批判。

コロナ禍の最中、カナダが政府の権限を拡大して、ワクチン接種義務など新型コロナウイルス対策の反対デモに関わった個人や企業の銀行口座を一方的に凍結、自分の口座にアクセスできなくすることができるようにした事例(参照)や、中国におけるデジタルIDによる人口のコントロールといった事例を挙げ、「(これは)デジタル専制政治への入口」だと反対の声をあげた。

どちらにしても、政府のサーバーがハッキングされ、すべての個人情報が集約されたデータが盗まれないという保証はない。そんなことが起きたら、これまでの個人情報漏洩以上の大問題になるに違いない。

豪政府がいうデジタルID法で強固なプライバシーの保護ができることは、国民にとってメリットなのか。
それとも「デジタル専制政治」への入口なのか...

個人情報のデジタル化を進める世界的な動きの中、どこまで政府が個人情報を把握し、管理されることになるのかによって、世の中をとりまく事情がずいぶん変わってきそうだ。〈了〉

 

Profile

著者プロフィール
平野美紀

6年半暮らしたロンドンからシドニーへ移住。在英時代より雑誌への執筆を開始し、渡豪後は旅行を中心にジャーナリスト/ライターとして各種メディアへの執筆及びラジオやテレビへレポート出演する傍ら、情報サイト「オーストラリア NOW!」 の運営や取材撮影メディアコーディネーターもこなす。豪野生動物関連資格保有。在豪23年目。

Twitter:@mikihirano

個人ブログ On Time:http://tabimag.com/blog/

メディアコーディネーター・ブログ:https://waveplanning.net/category/blog/

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