zzzzz

コラム

北朝鮮問題の背後で進むイラン核合意破棄

2017年08月21日(月)19時30分

Kevin Lamarque-REUTERS

<北朝鮮問題で緊張が高まる中、トランプ大統領は、誰にとってもメリットがないイラン核合意の廃棄に突き進もうとしている。アメリカはイラン問題では世界の中で孤立している>

7月4日(米国東部時間では7月3日)の米国の独立記念日にあわせたかのような北朝鮮のミサイル発射実験はその射程が6000kmを超える、いわゆる大陸間弾道弾(ICBM)クラスのミサイルであることが判明し、また7月28日にはさらに高い高度でのロフテッド軌道でのミサイル(つまりより長い射程のミサイル)打ち上げを行った北朝鮮。こうした挑発的な行動に対し、トランプ大統領は「炎と憤怒(fire and fury)」で報復するとの過激なレトリックで応戦し、さらに北朝鮮はグアム近海に4発のミサイルを撃ち込むと凄んでいる。ティラーソン国務長官やマティス国防長官は事態を外交的に収めようと、様々なメッセージを発信し、8月6日(米国東部時間では8月5日)に安保理決議2371号が採択され、北朝鮮への追加制裁が決定された。

このように急速な展開を見せる北朝鮮情勢は、グアムに向けたミサイル発射の飛行経路に当たる日本にとっても大きな懸念であり、連日トップニュースで伝えられ、米朝両国の出方や激しいレトリックの応酬、様々な筋から提供される情報収集に精一杯な状況である。

しかし、トランプ政権が直面する問題は北朝鮮問題だけではない。国内的にはバージニア州シャーロッツヴィルで起きた、白人至上主義者らによる右翼集会とそれに対する抗議デモとの衝突で、米国における極右の問題を巡るトランプ大統領の対応が大きな問題となり、ラテンアメリカに関しては、唐突にマドゥロ大統領の強権的な政策によって混乱の続くベネズエラに対して米国が武力介入をすると示唆した。加えて、これまでの持論であるイラン核合意の破棄も主張し、北朝鮮以外にも様々な対立構造を生み出して世界秩序を一層不安定にさせる行動を続けている。

これまでトランプ大統領は口先介入ないしはブラフ(口頭での脅し)も多用してきたため、全ての局面で対立構造を先鋭化させることはないと思われるが、中でも強く懸念されているのはイラン核合意の将来である。

苦虫を噛みつぶしながら認めた核合意遵守

トランプ大統領のイラン核合意破棄は選挙キャンペーン中からの公約ではあった。トランプ大統領の目には、イラン核合意はイランに核開発能力を残し、その見返りとして1500億ドルのキャッシュを与える「悪い合意」であり、しかもイランがシリアやイエメンに関与し続けているのは核合意違反(正確には核合意ではなく、安保理決議2231号の違反)であると映っていた(「核合意」と「安保理決議2231号」の違いについては別のところで論じたので、そちらをご参照いただきたい)。しかし、実際に政権につき、いざ核合意を破棄しようとすると、イランの核合意違反を指摘しなければならないのだが、少なくとも「核合意」として定められた約束をイランは遵守しており、IAEA(国際原子力機関)の査察によって確認されている。

2015年7月にオバマ大統領がP5+1(安保理常任理事国+ドイツ)とイランの間で核合意を結ぶに当たり、大統領と対立していた議会はイランが核合意違反を行った際に、即座に制裁復活などの対応が出来るよう、大統領に90日ごとに報告書を提出することを義務づけていた。議会は上院の外交委員長であるコーカー議員(共和党)をはじめとしてイランに対して懸念を持つ議員が多く、コーカーも核合意の締結には反対していた。2016年の選挙で上下両院とも共和党が多数派となり、イランの合意履行に懐疑的な議員が多数の状況にあって、この90日報告書は政権の認識と議会の対応を示す重要な意味を持つようになった。

プロフィール

鈴木一人

北海道大学公共政策大学院教授。長野県生まれ。英サセックス大学ヨーロッパ研究所博士課程修了。筑波大大学院准教授などを経て2008年、北海道大学公共政策大学院准教授に。2011年から教授。2012年米プリンストン大学客員研究員、2013年から15年には国連安保理イラン制裁専門家パネルの委員を務めた。『宇宙開発と国際政治』(岩波書店、2011年。サントリー学芸賞)、『EUの規制力』(共編者、日本経済評論社、2012年)『技術・環境・エネルギーの連動リスク』(編者、岩波書店、2015年)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾との平和的統一の見通し悪化、独立「断固阻止」と

ワールド

北朝鮮、韓国に向け新たに600個のごみ風船=韓国

ワールド

OPECプラス、2日会合はリヤドで一部対面開催か=

ワールド

アングル:デモやめ政界へ、欧州議会目指すグレタ世代
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
2024年6月 4日号(5/28発売)

強硬派・ライシ大統領の突然の死はイスラム神権政治と中東の戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 2

    キャサリン妃「お気に入りブランド」廃業の衝撃...「肖像画ドレス」で歴史に名を刻んだ、プリンセス御用達

  • 3

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...すごすぎる日焼けあとが「痛そう」「ひどい」と話題に

  • 4

    ウクライナ「水上ドローン」が、ロシア黒海艦隊の「…

  • 5

    「自閉症をポジティブに語ろう」の風潮はつらい...母…

  • 6

    ヘンリー王子とメーガン妃の「ナイジェリア旅行」...…

  • 7

    ロシアT-90戦車を大破させたウクライナ軍ドローン「…

  • 8

    1日のうち「立つ」と「座る」どっちが多いと健康的?…

  • 9

    米女性の「日焼け」の形に、米ネットユーザーが大騒…

  • 10

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 1

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 2

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 3

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 4

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲー…

  • 5

    キャサリン妃「お気に入りブランド」廃業の衝撃...「…

  • 6

    ハイマースに次ぐウクライナ軍の強い味方、長射程で…

  • 7

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃…

  • 8

    仕事量も給料も減らさない「週4勤務」移行、アメリカ…

  • 9

    都知事選の候補者は東京の2つの課題から逃げるな

  • 10

    少子化が深刻化しているのは、もしかしてこれも理由?

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story