最新記事
パレスチナ

ハマステロ関与の国連組織への「資金拠出」再開へ...「ちょろすぎる」日本が見落とすガザ問題の根深さ

2024年3月30日(土)15時38分
山田敏弘(国際ジャーナリスト)

newsweekjp_20240330041452.jpg

ガザの教科書に書かれた過激な記述「爆弾ベルトを付けてユダヤ人の戦車に火をつけろ」

そしてUNRWAの1万3000人の職員のうち、2100人以上がハマスのメンバーだったと、この報告書は指摘する。UNRWAの実に17%がハマスのメンバーということになり、さらに、先に述べたイスラエル軍のハガリ海軍少将の指摘のように、2100人とは別の約480人が戦闘員だったという。

UNRWA本部もハマスの地下トンネル網に繋がっていた

しかもハマスの組織内でも要職に就いている者も多く、その多くが学校の校長などの表の顔をもっていたことが判明している。そんなことから、学校自体が、ハマスの地下トンネルの一部に繋がっていたケースもある。つまり、国連職員の顔をしながら学校を仕切り、学校自体をテロ組織の隠れ家や武器などを保管する倉庫のように使っていたと見られている。

UNRWAの本部自体も、ハマスの地下トンネル網に繋がっていた。そう考えると、UNRWAが何も知らなかったという言い訳は通らないだろう。そして一部の職員らを追放したところで、UNRWAには深くハマスのメンバーなどが浸透しているため、状況が変わるとは思えない。ガザでは過激派テロ組織が、非常に根深く国連の人道支援組織に浸透しているのである。

さらに筆者は、イスラエル政府が2011年と2012年に、UNRWAに提供した公式文書を入手した。そこには、UNRWAが当時の時点で雇っていたと判明していたハマスのメンバー10人以上の名前や個人情報が記載されている。

ところが、UNRWAは当時、この書簡に無視を決め込んで、何ら対処をしなかった。当時、きちんと対処していれば、2023年10月のテロや、その後のイスラエルによる報復攻撃も起きなかったかもしれない。つまり、多くの命が失われることを避けられたかもしれない。また多額の援助で行われていたガザ市民のための人道支援が武装勢力に悪用されることもなかっただろう。

岸田文雄首相や上川大臣がこうした現地の実態をどれだけ知らされているのかは不明だが、今のまま資金の拠出を再開するのはテロ組織を助長するだけだと言わざるを得ないだろう。ハマスに資金が流れ、また組織力を強化する可能性もある。それはアメリカ議会や、ガザ住民の苦境を非常に気にかけているバイデン大統領ですらわかっている。だからこそ、1年間の資金提供停止を決めたのである。

3月28日、スペイン軍は、ヨルダンやEU(欧州連合)の協力で、26トンの人道支援物資を投下した。実はアメリカやフランス、ドイツも、上空から人道支援物資の投下を行なっている。まだテロ組織に浸透されているという状況がどのように改善したのかはっきりとわからず、自浄作用が機能しているかどうかわからないUNRWAに資金を提供するよりも、別の手段でガザ市民を支援するほうがいいのではないだろうか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

4月のスーパー販売額は前年比0.4%増=日本チェー

ビジネス

午後3時のドルは横ばい156円後半、対ドル以外でも

ビジネス

日経平均は反発、米エヌビディア決算を好感 半導体株

ワールド

ウクライナGDP、1─4月は前年比4.4%増 景気
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結果を発表

  • 2

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決するとき

  • 3

    「目を閉じれば雨の音...」テントにたかる「害虫」の大群、キャンパーが撮影した「トラウマ映像」にネット戦慄

  • 4

    「天国にいちばん近い島」の暗黒史──なぜニューカレ…

  • 5

    高速鉄道熱に沸くアメリカ、先行する中国を追う──新…

  • 6

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された─…

  • 7

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 8

    魔法の薬の「実験体」にされた子供たち...今も解決し…

  • 9

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 10

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 4

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 8

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 9

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 10

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中