最新記事
東南アジア

トゥオン国家主席が「電撃的解任」ベトナム共産党版の反腐敗闘争に明日はあるのか?

Vietnam’s New Realities

2024年3月27日(水)18時32分
セバスチャン・ストランジオ(ディプロマット誌東南アジア担当エディター)

国家主席の辞任だけでも大変な話だが、外国王室の来訪を中止させるなど外交にまで影響を及ぼすのは極めて異例だと、英字ニュースレター「ベトナム・ウイークリー」を発行するジャーナリストのマイク・タタースキは書く。

タタースキの記事の中で、ISEASユソフ・イシャク研究所のグエン・ハック・ジアン客員研究員は、これは「トゥオンの凋落がいかに急に起きたかを物語っている」と指摘している。

真の権力者をめぐる争い

ベトナムの政治プロセスは不透明で、トゥオンが国家主席に指名された経緯や解任のタイミングについても、さまざまな臆測が飛び交っている。ただ、トゥオンを指名したチョンのメンツがつぶれ、求心力が低下するのは間違いない。

昨年3月時点では、トゥオンを「チョン書記長の側近の中でも信頼の厚い人物」だとして、有力な後継者候補とみる専門家は少なくなかった。ベトナム政治の第一人者である豪ニューサウスウェールズ大学のカーライル・セイヤー名誉教授もその1人だ。

チョンが慎重に選んだはずの後継者が、チョンが一掃しようとしてきた汚職の容疑で断罪されたことは、ベトナムに完全に「クリーン」な政治家などほぼ存在しないことを示唆している。これでは党に対する国民の信頼を回復するのも難しいだろう。

なにしろ腐敗追放運動は8年間も続いているのに、いまだに記録的な数の汚職事件が摘発されている。それを論理的に説明できる理由は1つしかない。

ベトナムにおける腐敗は、一握りの悪徳政治家の仕業ではなく、構造的な問題である可能性が高いのだ。つまり、共産党の一党支配と切り離せない問題でもある。

また、現在79歳のチョンは、26年の党大会での退任がほぼ確実視されており、後継をめぐる党内の権力争いは今後激化する一方だろう。

今回、トゥオンが「引退」したことにより、候補者リストは短くなった。現在名前が取り沙汰されているのは、ファム・ミン・チン首相、ブン・ジン・フエ国会議長、チュオン・ティ・マイ党書記局常務、トー・ラム公安相だが、有力なのはマイとラムだと、ヒエップは言う。

2人とも、昨年のフック辞任後、トゥオンと並んで国家主席候補に名前が挙がっていたとされる。

「新たな国家主席が選出された後も、チョンが明確な権力承継計画を発表しない限り、党内の権力闘争は続くだろう」と、ヒエップは書いている。

「それまでは投資家もパートナー諸国も、ベトナム政治の新しい現実と付き合っていくしかない」

From thediplomat.com

20240521issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年5月21日号(5月14日発売)は「インドのヒント」特集。[モディ首相独占取材]矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディの言葉にあり

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 9

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 10

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中