最新記事
イラン

イランが近隣3カ国をミサイル攻撃した理由とは?

2024年1月23日(火)11時10分
シナ・トゥーシ(米国際政策センター上級非常勤フェロー)
(写真はイメージです) Hamara-Shutterstock

(写真はイメージです) Hamara-Shutterstock

<既に激動の中にあるこの地域に新たな火種が追加されたことは間違いないようだ>

イランの精鋭部隊であるイスラム革命防衛隊は1月16~17日、近隣3カ国(イラク、シリア、パキスタン)にミサイルと無人機で空爆を行った。標的は、最近のイランに対する攻撃の実行犯と支援者だという。

最初の攻撃は2023年12月15日、パキスタン国境に近いシスタン・バルチスタン州ラスクの警察署を武装集団が襲撃した。

第2の攻撃は革命防衛隊司令官ガセム・ソレイマニがアメリカに殺害された記念日に当たる今年1月3日、ソレイマニの故郷ケルマンにある墓近くで自爆テロが発生。90人以上が死亡、数百人が負傷するイラン現代史上最悪のテロ事件となった。

これらの攻撃はイランが内外の脅威に対して脆弱であることを露呈し、現体制の強さと安定のイメージを揺さぶった。一方、イラン側の報復はこの地域でより広範かつ危険な紛争リスクを高めている。

イランは武力を誇示する道を選択したが、この戦術は既に裏目に出ている。他国を攻撃することで当該国の主権を侵害し、イランともアメリカとも良好な関係を維持しようとしていたイラクとパキスタンの両政府を敵に回した。

イラクは国連安全保障理事会に非難の書簡を送付。パキスタンは高官同士の接触を停止し、18日にはイラン領内に前例のないミサイルと無人機による攻撃を実施した。

これはバローチ人分離主義勢力を攻撃したもので、イランの主権を尊重する姿勢に変わりはないと、パキスタン側は主張した。パキスタン外務省も、イランは「兄弟国」であり、パキスタンはイラン国民に「大きな尊敬と愛情」を抱いていると強調したが、両国は危険な報復合戦の瀬戸際にある。

イランは友好国との外交関係よりも、より強硬な国家安全保障戦略を優先させた可能性がある。革命防衛隊がパキスタン領内への攻撃を公言したことからもそれは分かる。

イラン政府は国内強硬派から、自国や自国の権益への攻撃に対する報復に消極的すぎると批判されてきた。12月25日、シリアで革命防衛隊のセイエド・ラジ・ムサビ上級司令官がイスラエルに殺害された後は特にそうだ。今回の攻撃は国境を越えた脅威を認識した場合、イランは今後より強硬で直接的な戦略を取ると示唆しているように見える。

今回の攻撃はイスラエルと、イランと親イラン勢力による「抵抗の枢軸」との地域的対立の一部と考えるべきだろう。革命防衛隊はイラク領内のクルド人自治区への空爆について、イスラエルの情報機関モサド関連の標的を攻撃したもので、ムサビ殺害に対する報復の一環だと発表した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

スペイン首相が続投表明、妻の汚職調査「根拠ない」

ビジネス

神田財務官、介入有無コメントせず 過度な変動「看過

ワールド

タイ内閣改造、財務相に前証取会長 外相は辞任

ワールド

中国主席、仏・セルビア・ハンガリー訪問へ 5年ぶり
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    ナワリヌイ暗殺は「プーチンの命令ではなかった」米…

  • 10

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    「誰かが嘘をついている」――米メディアは大谷翔平の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中