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日本社会

「大学進学率50%」のウラにある男女差と地域格差

2024年1月10日(水)11時30分
舞田敏彦(教育社会学者)

各県の大学進学率は、県民所得とプラスの相関関係にある。大学進学には多額の費用がかかることから、これは当然だ。保護者の意識(考え方)の影響も大きい。大学生の親年代の大学・大学院卒率は、県民所得よりも大学進学率と強く相関している<図2>。

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大卒の親は大学の価値(効用)を認め、子にも大学へ進学することを期待する。子どもも幼少期より、高卒後の進路として大学進学を意識する。だが親が非大卒の家庭では、これとは逆になりやすい。自分の家庭のみならず、住んでいる地域に大卒の人がほとんどいないような場合、大学について見聞きすることすらない。

あと1つは大学が地域的に偏在していることだ。自宅から通える大学が少ない(ない)地方の場合、通常の学費に加えて下宿代の負担も強いられる。都市部の家庭にくらべて、少ない所得の中から倍の支出をしないといけない。女性にあっては、治安の心配から「自宅通学でないと許さない」という家庭も少なくないだろう。このことは、大学進学率の性差の要因となっている。

ざっと考えても、当人の能力とは無関係の要因がこれだけある。<図1>の地図は、高等教育機会の地域格差・ジェンダー格差の可視化とみていい。高等教育修学支援制度により低所得層の大学学費は減免され(住民税非課税世帯は実質無償)、給付型奨学金も導入された。また、女子学生の下宿費用を補助する大学も出てきており、機会の均等に向けた取り組みが進んでいる。だが<図1>の地図を見ると、さらに進める余地はまだまだある。

全員が大学に行く必要などない。しかし能力や意向があるにもかかわらず、外的な要因によって進学が阻まれることがあってはらない。法律が定める「教育の機会均等の理念」に反する。教育を受けることは国民の権利であって、奨学措置によりそれを保障するのは国家の責務だ。

<資料:文科省『学校基本調査』
    総務省『就業構造基本調査』(2022年)

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