最新記事

原発処理水

「福島の魚を一生食べ続けてもトリチウム摂取量はバナナひと口分」──処理水放出、海外専門家の見方

Japan Is Releasing Fukushima's Water Into the Pacific—Is That Safe?

2023年8月23日(水)18時38分
ジェス・トムソン

処理水に含まれる放射能の量は、自然界の環境放射能レベルに比べると、ごくわずかだ。

「処理水はわずかに放射能を帯びているが、危険なレベルではない。IAEAの報告書では、人々や環境への放射線量は極めて低いと結論づけられている」と、英ポーツマス大学のジム・スミス教授(環境科学)は本誌に語った。

「福島地域で獲れた魚介類を大量に摂取した場合の線量は、年間1マイクロシーベルト以下になると予想されている。これは、宇宙線や地上や体内の天然カリウム40などの自然放射線源から誰もが受ける年間放射線量の2000分の1以下だ」

スミスによれば、原子力発電所の冷却水の海洋放出は、これまでにも何度も行われてきた。

「中国と韓国には、福島の放出量の3倍の放射性トリチウムを放出する原子力発電所がある。フランス北部のラ・ハーグでは、福島の放出量の約450倍のトリチウムが放出されており、数十年間放出され続けている。これらの放出によって、特に放射線量の増加はみられていない」と彼は言う。「少量の放射線の放出は、世界中の原子力発電所で発生しているが、それによって、人間や環境に含まれる放射線量が大きく増えることはない」

「東京電力の環境評価には欠けた部分が」

だが、東京電力の海洋放出計画は汚染水の処理方法として理想的とはいえないと主張する専門家もいる。

「処理された汚染冷却水を太平洋に放出するという日本の計画は時期尚早であり、現時点では賢明ではない」と、言うのはハワイ大学マノア校ケワロ海洋研究所のロバート・リッチモンド所長。太平洋諸島フォーラムの専門家科学諮問委員会のメンバーでもある。

「海は、現在も、そしてこれから何世代にもわたって、全人類にとって貴重な共有資源だ。東京電力が作成した放射線環境影響評価書には欠陥があり、不十分である。また、モニタリング計画やそのやり方も十分とはいえない。放射能を検出するだけで、生態系の保護には取り組んでいない」と、彼は説明した。

リッチモンドは、海底堆積物における特定の放射性核種にどんな影響を与えるか、また海洋生物における生物濃縮については、IAEAの報告に記載がないと言う。

「重要なのは、今回の処理水放出で発生しうる悪影響は、それだけの問題ではすまないということだ。農薬、重金属、産業廃棄物、炭化水素、プラスチック汚染、気候変動、資源の乱獲に伴う生態系の乱れなど、すでに多くのストレス因子が海洋と海洋に依存する人々の健康に悪影響を及ぼしている」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ロビンフッドが初の自社株買い、第3四半期から10

ビジネス

日経平均は小幅反発で寄り付く、米ハイテク株高を好感

ビジネス

新技術は労働者の痛み伴う、AIは異なる可能性=米S

ワールド

トランプ氏不倫口止め裁判で最終弁論、陪審29日にも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
2024年6月 4日号(5/28発売)

強硬派・ライシ大統領の突然の死はイスラム神権政治と中東の戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲームチェンジャーに?

  • 2

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 3

    メキシコに巨大な「緑の渦」が出現、その正体は?

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    汎用AIが特化型モデルを不要に=サム・アルトマン氏…

  • 6

    プーチンの天然ガス戦略が裏目で売り先が枯渇! 欧…

  • 7

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃…

  • 8

    なぜ「クアッド」はグダグダになってしまったのか?

  • 9

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 10

    ハイマースに次ぐウクライナ軍の強い味方、長射程で…

  • 1

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 2

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 3

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃がのろけた「結婚の決め手」とは

  • 4

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決す…

  • 5

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 6

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 7

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 8

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲー…

  • 9

    「天国にいちばん近い島」の暗黒史──なぜニューカレ…

  • 10

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された─…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 8

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 9

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中