最新記事

アフリカ

「ワグネル」もう1つの戦場...中東の「覇権争い」に、ロシアとエジプトまで絡んだスーダン紛争の奇々怪々

Really a Proxy War

2023年7月27日(木)19時01分
タラル・ムハマド
スーダン準軍事組織RSFのリーダー、ダガロ

ハルツーム郊外で支持者に迎えられるRSFのダガロ(写真中央) UMIT BEKTASーREUTERS

<沈静化の兆しが見えない国軍とRSFの戦闘、実態はそれぞれの背後にいるサウジとUAEが、中東の盟主の座を争う代理戦争だ>

スーダンで国軍と準軍事組織の戦闘が始まって既に3カ月余り。支配権を争う2人の司令官が停戦を受け入れてもすぐにまた衝突が激化し、沈静化の兆しは見えない。

国軍トップのアブデル・ファタハ・ブルハンは2019年のクーデターで、長期にわたり独裁支配を敷いていたオマル・バシル大統領を追放し実権を掌握。21年に再度クーデターを起こし、民主派を排除して軍主導の統治を固めた。そのブルハンに盾突いたのが準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」を率いるモハメド・ハムダン・ダガロだ。

ダガロはバシル前大統領時代にRSF(当時の名称はジャンジャウィード)を率いて、ブルハン率いる国軍と共に西部ダルフール地方で起きた紛争を鎮圧した。21年のクーデター後に樹立された暫定政権「主権評議会」ではブルハンが議長、ダガロが副議長に就任。2人は協力して政権運営を行うはずだったが、RSFを国軍に統合する計画をめぐってたもとを分かち、配下の部隊が衝突する事態となった。

4月15日に始まった戦闘は多大な人的被害をもたらしている。7月半ば時点で死者は3000人、国内外の避難民は300万人を超えたという。

2人の司令官の対立はただの内輪もめにとどまらない。スーダンは中東とアフリカを結ぶ要衝に位置し、豊かな天然資源に恵まれている。

この国で起きた紛争は、ペルシャ湾岸地域の2大国、サウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)にとっては影響力拡大の絶好のチャンスとなる。あわよくば中東の盟主として自国の地位を打ち固めようと、サウジアラビアはブルハンに肩入れし、UAEはダガロの後ろ盾となった。

RSFが国軍を打ち負かす見込みは薄いが、国軍が完全にRSFを抑え込むのも至難の業だ。考えられるシナリオは軍閥が群雄割拠する今のリビアのように、スーダンもブルハン派とダガロ派の支配地域に分割されるというもの。

そうなれば、ブルハン派とサウジアラビアはRSFつぶしに懸命になり、UAEはRSFへのてこ入れを強化して、湾岸地域の新たなリーダーにのし上がろうとするだろう。

対米関係でも張り合う

サウジアラビアとUAEは共に湾岸協力会議(GCC)の加盟国で、これまで何十年も表向きは同盟関係にあった。それでも、この2国が地域の盟主の座を狙って互いに対抗意識を燃やしていることは以前から薄々分かっていた。

ただ、それがはっきり表に出たのは最近のこと。中東では長年緊張が続いてきたため、両国は競争よりも協力を優先せざるを得なかったからだ。

今では事情が違う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン大統領、16-17日に訪中 習主席との関係

ビジネス

インフレ低下の確信「以前ほど強くない」、金利維持を

ワールド

EXCLUSIVE-米台の海軍、4月に非公表で合同

ビジネス

米4月PPI、前月比0.5%上昇と予想以上に加速 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プーチンの危険なハルキウ攻勢

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 10

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中