最新記事

現地取材

サイバー空間では、台湾「有事」はすでに始まっていた...日本にも喫緊の課題、「OT」のリスクとは?

2023年7月12日(水)18時51分
山田敏弘(国際ジャーナリスト)
東アジアのサイバー空間イメージ

NicoElNino/iStock

<サイバー空間では台湾「有事」はすでに始まっている? 中国スパイ工作の実態と、台湾「防衛戦」の実態を現地取材>

2023年5月、中国の政府系サイバー攻撃グループが、米セキュリティソリューション企業バラクーダネットワークス社の提供する電子メールセキュリティ対策ソリューションにハッキングで侵入していたことが明らかになった。世界各地でこのシステムを導入していた数百に上る官民組織が被害に遭い、そのうちの3分の1は政府機関だったという。

また中国政府系ハッカーらは最近、ケニア政府へのハッキング攻撃で政府予算がらみの機密情報を盗もうとしていたことが明らかになっている。こうしたケースをはじめ、中国政府系ハッカーは世界中で幅広く情報窃取などスパイ工作を繰り広げていることがわかる。

こうした情報窃取のためのサイバースパイ工作は大きな問題だが、それよりも深刻だと言えるのは、国家の重要インフラなどへのサイバー攻撃である。ビジネスや社会生活を妨害して混乱を引き起こすサイバー攻撃や、代替のきかないインフラ施設などへのランサムウェア(身代金要求型ウイルス)攻撃などは、国家を根幹から揺るがす危険性がある。

近年、世界的にインフラ施設などを狙ったサイバー攻撃への危機感が高まっている。対策が議論されてもいるが、中国政府系サイバー攻撃者などによる産業制御システムやインフラを狙ったサイバー工作は増加しつつある。

米領グアムでは2023年5月、「Volt Typhoon(ボルト・タイフーン)」と呼ばれる中国政府系サイバー攻撃グループが、同島の通信インフラに対してサイバー攻撃を行っていたことが判明している。このケースでは米軍基地のインフラも狙われておりセキュリティ関係者の間で大きな話題になった。その背景には、米中対立もあると見ていい。

中国からサイバー攻撃を受け続けてきた台湾

このような表面化している大規模なケースはアメリカが標的になっているケースが多いが、実はアメリカ以外にもこうした攻撃に警戒心を強めている国がある。台湾だ。

近年、中国共産党の強権化にともなって台湾有事の可能性が高まっていると指摘する声は多い。台湾では現在の民進党政権が反中国の姿勢を鮮明にし、中国側も習近平国家主席が武力による台湾統一にも言及している。そんなことから、台湾寄りのアメリカなど欧米諸国も巻き込んで緊張関係が続いている。

そんな情勢の中で、台湾はこれまでも中国からサイバー攻撃を受け続けてきた。2020年に台湾を襲ったサイバー攻撃を分析すると、台湾の政府系機関に対する攻撃は28.4%だったのに対して、製造業やインフラ関連への攻撃は46%に達している。その中でも特に目立つのは、半導体などハイテク産業を含む製造業で、29.3%を占めている。

【20%オフ】GOHHME 電気毛布 掛け敷き兼用【アマゾン タイムセール】

(※画像をクリックしてアマゾンで詳細を見る)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

円が対ドルで5円上昇、介入観測 神田財務官「ノーコ

ビジネス

神田財務官、為替介入観測に「いまはノーコメント」

ワールド

北朝鮮が米国批判、ウクライナへの長距離ミサイル供与

ワールド

北朝鮮、宇宙偵察能力強化任務「予定通り遂行」と表明
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中