最新記事

トルコ

それでもエルドアンを愛し続ける──国父が掲げた「ナショナリズム」は今も健在

Erdogan as “One of Us”

2023年5月29日(月)13時40分
ステファニー・グリンスキ(ジャーナリスト)

建国100周年の現実

イスタンブールのサライブルヌ港に停泊するアナドルは、トルコのためにトルコで建造された。外国人の乗船は認められていない。

公開されたのは、5月14日に行われたトルコ大統領選の約1カ月前。連日、最大1万5000人が詰めかけたと、見学希望者の行列を整理していた警官は言う。

大統領選の投票締め切り後、アナドルはハッチを閉じ、出港した。だが現職のエルドアンも対立候補も、当選に必要な過半数を獲得できず、決選投票の実施が確実になると、即座にUターン。

5月28日の決選投票を前に、順番待ちの行列は以前より短くなったが、訪れる人は絶えなかった。

列に並ぶ女性の1人に、見に来た理由を尋ねた。彼女の子供2人は不況が続くトルコで生活が成り立たず、どちらも移住先のアメリカでタクシー運転手をしているが、いつかは帰国してほしいという。

「ここには何でもある。いい病院も、いい道路も、この船も」。彼女は携帯電話画面をスクロールして、戦車やヘリ、ドローンの画像を見せた。トルコの武器輸出額は昨年、44億ドル相当を記録。今年はさらなる増額を目指す構えだ。

軍艦に関しては、トルコの進歩は大きい。第1次大戦前、当時のオスマン帝国はイギリスの造船所に戦艦2艇の建造を依頼。開戦直後の1914年8月、受け取りのため、オスマン帝国海軍兵士500人がニューカッスルへ赴いた。

どちらも見事な出来だった。そのためか、戦艦はいずれも英政府に接収され、この「裏切り」に怒ったオスマン帝国は同年11月、イギリスの敵のドイツ側について参戦した。

ほぼ10年後の1923年、滅亡したオスマン帝国に代わり、ムスタファ・ケマル・アタチュルク率いる共和国として近代トルコが誕生。

今年、建国100周年を迎えたトルコでは、アタチュルクが推進した世俗主義は廃れた。だが国父が掲げたもう1つの思想、ナショナリズムは健在だ。

「トルコはもう、イギリスにもアメリカにも頭を下げたりしない」

そう話すのは、トゥーチェ・ヤウズ(40)だ。11歳の双子の息子を連れて、アナドルを見学した彼は「素晴らしかった」と感想を語る。

「息子たちのために願うのは強く、独立した国家。安全に暮らせる場所だ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

FRB副議長、インフレ低下持続か「判断は尚早」 慎

ワールド

英裁判所、アサンジ被告の不服申し立て認める 米への

ワールド

ICC、ネタニヤフ氏の逮捕状請求 ガザ戦犯容疑 ハ

ワールド

ウクライナ、北東部国境の町の6割を死守 激しい市街
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『悪は存在しない』のあの20分間

  • 2

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 5

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された─…

  • 6

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 7

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    9年前と今で何も変わらない...ゼンデイヤの「卒アル…

  • 10

    「親ロシア派」フィツォ首相の銃撃犯は「親ロシア派…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 4

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 9

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中