最新記事
世界のニュース50

「おまかせ」が1人15万円、寿司バブルに躍るNY

2023年4月25日(火)11時49分
冷泉彰彦(在米作家・ジャーナリスト)
寿司

高額なおまかせコースのターゲットは若いリッチなアメリカ人だ MARK PETERSONーREDUX/AFLO

<今や「OMAKASE」となったアメリカでは、寿司のコースが若いリッチな人々に大人気。しかし中には「ホンモノの味」が失われた店もあり...>

アメリカの寿司ブームは今や「バブル」とも言える現象にまで発展している。ブームが過熱する転機になったのは2011年に公開された、寿司職人の小野二郎を取り上げたドキュメンタリー映画『二郎は鮨の夢を見る』だ。

アメリカの食通は、小野を神格化された存在と受け止め、同時に「おまかせ」という寿司のコースをありがたがるようになった。このブームに結果的に火をつける形となったのが、高山雅氏(まさよし)がオーナーシェフを務める04年オープンの高級寿司レストラン「Masa」だった。

以降、「OMAKASE」という言葉はそのまま英語になって独り歩きし、価格も高騰。現在はカウンターで食べる1人前のコースが950ドル、消費税とチップを入れると約15万円というお値段だ。

コロナ禍の初期にはロックダウンで苦しんだ寿司業界だが、昨年後半からは「ポストコロナ」の需要に乗り、寿司ブームは盛り上がりを見せる。テック・金融業界の賃金上昇によって、若年層がかなりの購買力を持っていることも背景にある。

では、その味はどうかというと、玉石混交と言っていいだろう。ニューヨークの場合、「寿司清」「寿司田」といった日本人による日本人向けの本格的な寿司店は既に閉店。

現在のプレミアム寿司は基本的にアメリカ人、それもミレニアル世代以下の若い層がターゲットになっている。

もちろん、日本の寿司職人がしっかり指導して、寿司の基本から外れない味を提供している店もある。本わさびを提供しつつ、その「おろし方」を丁寧に指導する店、ネタの産地をきちんと説明する店などもある。

その一方で近年は、寿司職人が日本人だけの特殊技能ではなくなっていることから、日本の職人にビザが出なくなっているという現実がある。

これとともに、急速に「ホンモノの味」が失われているのも事実だ。その結果、高価なおまかせコースでも、かなり怪しい内容を提供する店も出てきている。

こんなことでは、寿司ブームは結局バブルに終わるかもしれない。少なくとも、現地の評判だけで「OMAKASE」コースに大金をはたくのはリスクが大きい。

※編集部注:記事のタイトル、リード、本文の一部を修正しました(2023年11月24日)。

20240604issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年6月4日号(5月28日発売)は「イラン大統領墜落死の衝撃」特集。強硬派ライシ大統領の突然の死はイスラム神権政治と中東の戦争をこう変える グレン・カール(元CIA工作員)

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾との平和的統一の見通し悪化、独立「断固阻止」と

ワールド

北朝鮮、韓国に向け新たに600個のごみ風船=韓国

ワールド

OPECプラス、2日会合はリヤドで一部対面開催か=

ワールド

アングル:デモやめ政界へ、欧州議会目指すグレタ世代
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
2024年6月 4日号(5/28発売)

強硬派・ライシ大統領の突然の死はイスラム神権政治と中東の戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 2

    キャサリン妃「お気に入りブランド」廃業の衝撃...「肖像画ドレス」で歴史に名を刻んだ、プリンセス御用達

  • 3

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...すごすぎる日焼けあとが「痛そう」「ひどい」と話題に

  • 4

    ウクライナ「水上ドローン」が、ロシア黒海艦隊の「…

  • 5

    ヘンリー王子とメーガン妃の「ナイジェリア旅行」...…

  • 6

    「自閉症をポジティブに語ろう」の風潮はつらい...母…

  • 7

    ロシアT-90戦車を大破させたウクライナ軍ドローン「…

  • 8

    1日のうち「立つ」と「座る」どっちが多いと健康的?…

  • 9

    米女性の「日焼け」の形に、米ネットユーザーが大騒…

  • 10

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 1

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 2

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 3

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 4

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲー…

  • 5

    ハイマースに次ぐウクライナ軍の強い味方、長射程で…

  • 6

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃…

  • 7

    仕事量も給料も減らさない「週4勤務」移行、アメリカ…

  • 8

    都知事選の候補者は東京の2つの課題から逃げるな

  • 9

    少子化が深刻化しているのは、もしかしてこれも理由?

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中