zzzzz

最新記事

貿易

サプライチェーンの「フレンド化」を目指す時──イエレン米財務長官

2022年12月30日(金)15時50分
ジャネット・イエレン(米財務長官)
貨物船

CARLOS BARRIA-REUTERS

<貿易の一極集中はリスクを伴う。激動期を生き抜くには友好国との新体制構築が必要だ>

過去3年間の出来事は世界各地で経済にきしみを生じさせている。新型コロナウイルスのパンデミックは665万人以上の命を奪い、世界経済を停滞させた。世界経済がようやく回復し始めたとき、ロシアの残忍な戦争がウクライナの人命とインフラに壊滅的損害を与え、原油・食料価格に重大な影響を及ぼしている。

さらに気候変動の影響で世界各地で深刻な干ばつや洪水が発生。農業生産に支障を来し、エネルギー不足を悪化させている。その結果、木材からマイクロプロセッサ、食料・燃料まで主要品目が不足し、世界規模で成長が鈍化して多くの国・地域で高インフレの一因となっている。

この状況下ではどんな経済課題も、地域や世界規模のショックがサプライチェーンに影響する可能性を考慮するべきだ。どの国も自国経済のニーズに国内生産だけでは対応しきれない。貿易は全ての当事国に多大な経済的恩恵をもたらす。

私たちは、グローバルな経済統合を積極的に擁護しなければならない。それには安全な貿易で経済統合の恩恵にあずかると同時に、供給の信頼性を高める必要がある。特に気がかりな3大リスクは、一極集中、地政学上・安全保障上のリスク、基本的人権の侵害だ。

民間部門は経済的レジリエンス(回復力)をおのずと獲得するわけではないことも認識する必要がある。短期的なコスト削減に躍起で、長期的リスクを考慮しない企業もある。その中で、米バイデン政権が提唱する「フレンド・ショアリング」は信頼できる多くの貿易パートナーとの経済統合を深めることを目指す。サプライチェーンを多様化し経済的リスクの軽減も図る。

フレンド・ショアリングは、経済安全保障は保護主義によってのみ実現可能という主張への反論でもある。国内生産や少数の国との取引にだけ限定してしまえば、貿易の効率向上を著しく損ない、アメリカの競争力とイノベーションに打撃を与えるだろう。私たちの目標はリスクのある国との取引やサプライチェーンの集中から脱却し多様化を図ることだ。フレンド・ショアリングは閉鎖的ではなく、先進国に加え新興市場や途上国におけるアメリカの貿易パートナーも含めたオープンなものになる。

新たなサプライチェーンの構築は既に始まっている。例えばEUは米インテルと共同で、半導体サプライチェーン強化に今後10年間で総額800億ユーロ(約11兆5000億円)を投資する。

アメリカも2022年8月、国内の半導体産業を強化するCHIPSおよび科学(CHIPSプラス)法を成立させ、信頼できるパートナーと国内半導体エコシステムの整備を進めている。オーストラリアと協力してレアアースの採掘・処理施設も建設。磁石やレアアースは電子機器やクリーンエネルギー技術、軍事技術に不可欠で、世界の産出量の圧倒的シェアを中国が占めている。

数十年後には、この3年間を現代史上まれにみる激動期として、かつアメリカがパートナーと共にレジリエンス重視の経済課題の新たな柱を推進した時期として振り返ることになるはずだ。

©Project Syndicate

ジャネット・イエレン
JANET YELLEN
前FRB議長。2021年1月に第78代財務長官に就任。バイデン政権の経済政策を担う。

20240604issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年6月4日号(5月28日発売)は「イラン大統領墜落死の衝撃」特集。強硬派ライシ大統領の突然の死はイスラム神権政治と中東の戦争をこう変える グレン・カール(元CIA工作員)

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

台湾との平和的統一の見通し悪化、独立「断固阻止」と

ワールド

北朝鮮、韓国に向け新たに600個のごみ風船=韓国

ワールド

OPECプラス、2日会合はリヤドで一部対面開催か=

ワールド

アングル:デモやめ政界へ、欧州議会目指すグレタ世代
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
2024年6月 4日号(5/28発売)

強硬派・ライシ大統領の突然の死はイスラム神権政治と中東の戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 2

    キャサリン妃「お気に入りブランド」廃業の衝撃...「肖像画ドレス」で歴史に名を刻んだ、プリンセス御用達

  • 3

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...すごすぎる日焼けあとが「痛そう」「ひどい」と話題に

  • 4

    ウクライナ「水上ドローン」が、ロシア黒海艦隊の「…

  • 5

    ヘンリー王子とメーガン妃の「ナイジェリア旅行」...…

  • 6

    「自閉症をポジティブに語ろう」の風潮はつらい...母…

  • 7

    ロシアT-90戦車を大破させたウクライナ軍ドローン「…

  • 8

    1日のうち「立つ」と「座る」どっちが多いと健康的?…

  • 9

    米女性の「日焼け」の形に、米ネットユーザーが大騒…

  • 10

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 1

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 2

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 3

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 4

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲー…

  • 5

    ハイマースに次ぐウクライナ軍の強い味方、長射程で…

  • 6

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃…

  • 7

    仕事量も給料も減らさない「週4勤務」移行、アメリカ…

  • 8

    都知事選の候補者は東京の2つの課題から逃げるな

  • 9

    少子化が深刻化しているのは、もしかしてこれも理由?

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中