最新記事

宇宙

「裏庭ほどの距離」地球に最も近いブラックホールが見つかる

2022年11月15日(火)19時10分
青葉やまと

BH1の周囲には、太陽のような恒星が周回している......  International Gemini Observatory/NOIRLab/NSF/AURA/J. da Silva/Spaceengine/M. Zamani

<これまで判明していたものよりも地球から3分の1の距離にあり、太陽に似た星を随伴している......>

ガイアBH1と呼ばれる、地球に最も近いブラックホールが発見された。地球から見て黄道上のへびつかい座の方向に位置し、太陽の10倍の質量を持つ。

実際の位置は1600光年先となっており、天文学的スケールからすると非常に近いと考えられる距離感だ。このブラックホールは、ジェミニ国際天文台の天文学者たちによって発見された。同天文台は、ハワイのマウナ・ケア山とチリのパチョン山に2基の観測拠点を構える。

天文台を運用する米NSF国立光赤外線天文学研究所は「私たちの宇宙のすぐ裏庭」にあると述べ、太陽系との距離的な近さを強調している。

これまでに発見されていたブラックホールのうち最も地球に近いものは、いっかくじゅう座X-1と呼ばれる3連星を構成する天体のうちのひとつだった。これと比較し、新たに発見されたガイアBH1と地球との距離は3分の1ほどとなっている。

困難だった休眠型ブラックホールの検出

ガイアBH1はブラックホールだが、いわゆる「休眠状態」にある。したがって地球はもちろん、ほかの近傍天体を呑み込むことはない。米テクノロジーサイトのCNETは本ブラックホールの発見を報じるなかで、「でも心配しないで。休眠中なので、私たちを食べることはありません」と強調している。

休眠状態にあるブラックホールだからこそ、ジェミニ国際天文台の天文学者たちは検出に苦労したようだ。これまで発見されたブラックホールはその大多数が「活動型」と呼ばれるものであり、近くにある天体や星間ガスを継続的に呑み込んでいる。ブラックホール自体は漆黒だが、こうして引き寄せられた天体が極度に圧縮され、摩擦を生むことでエネルギーを放出し、電磁波による観測において輝いて見える。

しかしBH1は休眠型であるため、手がかりが限られる。エル=バドリー博士たちはBH1の周囲を周回する天体の運動を精密に観測することで、その軌道のほぼ中心部にあるBH1の存在を突き詰めた。

BH1の周囲には、太陽のような恒星が周回している。その間隔はちょうど地球と太陽ほどの距離だ。この恒星の速度と公転周期を緻密に追跡することで、観測が難しい休眠型ブラックホールを発見することができたという。博士は「この連星系の動きを説明するシナリオにおいて、少なくとも1つのブラックホールを伴わないものは見つかりませんでした」と説明している。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米CPI、4月は前年比3.4%上昇に鈍化 利下げ期

ビジネス

米小売売上高4月は前月比横ばい、ガソリン高騰で他支

ワールド

スロバキア首相銃撃され「生命の危機」、犯人拘束 動

ビジネス

米金利、現行水準に「もう少し長く」維持する必要=ミ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 5

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    奇跡の成長に取り残された、韓国「貧困高齢者」の苦悩

  • 9

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 10

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中