最新記事

ウクライナ戦争

「ロシア敗北」という現実が近づく今こそ、アメリカが思い出すべき過去の苦い失敗

America’s Conundrum

2022年10月5日(水)17時07分
スティーブン・ウォルト(国際政治学者、ハーバード大学ケネディ行政大学院教授)

221011p34_RHB_03.jpg

フィンランド空軍にはアメリカ製のF/A-18戦闘機を供与した JANIS LAIZANSーREUTERS

脅威を誇張することは、脅威を軽視するのと同じくらい危険で、国家を窮地に陥れかねない。かつてドイツの宰相オットー・フォン・ビスマルクは、こう警告した。予防的戦争は「死ぬのを恐れて自殺する」ようなものだと。アメリカの政治家はこの言葉を肝に銘じておくべきだ。

教訓その3は自明の理だ。外国へ攻め込むとき、その国の人たちから歓迎されると期待してはならない。むしろ外国からの侵略は国民を団結させ、激しく効果的なレジスタンスに結実するのが常だ。現にウクライナではそうなった。侵攻軍が戦争犯罪や残虐行為に走れば、歓迎される可能性はさらに下がる。

プーチンはヒトラーと同じ誤りを犯した

教訓その4は、あからさまな侵略行為に対しては各国が黙っていないということ。8年前のクリミア併合に対する西側の反応が鈍かったので、プーチンはウクライナ本土に攻め込んでも大丈夫と踏んだのかもしれない。

そうだとすれば、彼は1939年3月にチェコスロバキアの一部を占領し、続いてポーランドにまで侵攻したアドルフ・ヒトラーと同じ誤りを犯したことになる。超大国との距離感は微妙だ。手間がかかるし、時には他国に責任を転嫁したくもなる。だが露骨な軍事侵略が起きた場合に、適当な距離を保つという選択肢は取りにくい。

ソ連崩壊でアメリカの一極支配が始まったとき、アメリカの冒険主義に対しては軍事的に対抗した国もあれば、ソフトな対応に徹した国もあった。そういうダイナミズムが、アメリカ政府の野望の一部を阻止することに役立った。そのことを、私たちは忘れてはならない。

教訓は以上の4つだ。ウクライナで勝利しても、アメリカが勝手に世界秩序を変えられるわけではない。そんなことは、一極支配の最盛期にも無理だった。

今は中国が台頭し、欧州の経済力は落ち、途上国の多くはアメリカに対して是々非々の態度を守っている。30年前よりも状況はアメリカに不利だ。もしもアメリカの政治家がウクライナでの勝利を、自由主義を世界に売り込むチャンスと見なすようなら、アメリカは再び失敗する運命にある。

そうではなく、アメリカはこの機会に、東西冷戦の時代に始まる自国の世界戦略を慎重に検証してみるべきだ。有効だった政策は何で、失敗した政策は何か。以下、筆者なりに判定してみよう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ノババックス、サノフィとコロナワクチンのライセンス

ビジネス

中国高級EVのジーカー、米上場初日は約35%急騰

ワールド

トランプ氏、ヘイリー氏を副大統領候補に検討との報道

ビジネス

米石油・ガス掘削リグ稼働数、3週連続減少=ベーカー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    横から見れば裸...英歌手のメットガラ衣装に「カーテ…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ウクライナの水上攻撃ドローン「マグラV5」がロシア…

  • 9

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 9

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中