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「奨学金」という名の借金が地方の若者を苦しめる

2022年9月22日(木)10時30分
舞田敏彦(教育社会学者)

こうした経済条件の差が、学生の奨学金利用に投影されていないか。横軸に父親年代の所得中央値、縦軸に大学生の奨学金利用率(上表)をとった座標上に、47都道府県のドットを配置すると<図1>のようになる。

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右下がりの負の相関関係がみられる。父親年代の所得が低い県ほど、奨学金利用率が高い傾向だ。相関係数はマイナス0.63748にもなる。地方では借金を負わせて(無理をして)進学させている、という印象を禁じ得ない。

大学進学率50%超、高等教育のユニバーサル段階に達している日本だが、(地方の)学生に借金を負わせることで成り立っている。地方は所得水準も低いので、卒業後に返していくのも大変だ。数百万の借金を背負っていることは、結婚や出産の妨げにもなるだろう。奨学金の利用増加が、未婚化・少子化につながっているとしたら皮肉なことだ。

高等教育の機会を多くの若者に開くのはいいが、当人に借金を負わせることでそれを進めると、個人にとっても社会にとってもよからぬことになる。私費依存の教育拡張の病理だ。高等教育への公的支出の対GDP比は、日本は諸外国と比べて低い。真のスカラシップ(給付型)を,今よりもっと拡張する余地はある。

並行して、貸与型の奨学金は「学生ローン」と名称変更すべきだ。これだけでも、安易な借り入れを減らすことができる。奨学金という美名で釣って借金を負わせるなど、国のすることではない。実際に勘違いする人もいて、「奨学金って返すんですか?」と真顔で驚く学生に会ったことがある。

地域によっては、大学生の半分以上が数百万の借金を背負って社会人生活をスタートするという事態になっている。若者が借金漬けになっているような地域では、希望も未来もあったものではない。

アメリカのように奨学金の一部をチャラにする政策をしてみるのもいい。それで足かせが外れ、婚姻や出産の増加につながればしめたものだ。

<資料:日本学生支援機構「奨学金に関する情報提供」
    総務省『就業構造基本調査』(2017年)

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