最新記事

旧ソ連

見えてきたウクライナの「勝利」...ロシア撤退で起きる「崩壊ドミノ」とは?

A New Liberation

2022年9月21日(水)17時10分
ブライアン・ウィットモア(アトランティック・カウンシル ユーラシアセンター非常勤上級研究員)
ウクライナ国旗

ウクライナ軍が奪還したハリコフ州クピアンスク(9月19日) Ukrainian Presidential Press Service/Handout via REUTERS

<ウクライナがロシアを現在の支配地域から追い出す「勝利」を得られれば、旧ソ連諸国に「第2の解放」をもたらすことができる>

ロシアによるウクライナ侵攻が始まってから間もなく7カ月。ここへきて、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領の演説には、勝利を意識させる言葉が目立つようになってきた。

8月18日の演説では、「どうすれば勝てるかだけを考えるべきだ」と国民を励ました。ウクライナの独立記念日と、ロシアの侵攻開始から半年が重なった同24日には、ロシアの実効支配下にある地域も諦めるつもりはないことを、改めて明確にした。いわく、「ドンバスは、......クリミアは、ウクライナだ。どのような道のりであろうと、われわれはそこに戻る」

実際、ウクライナ軍は8月、2014年にロシアに「併合された」クリミアで、初めて本格的な攻勢に出た。セバストポリにあるロシアの黒海艦隊司令部もドローンで攻撃した。さらに9月に入るとケルソンとハルキウ(ハリコフ)を一部奪還し、ウクライナはロシアの攻撃に耐えるだけでなく、純粋に勝利できるかもしれないとの希望が生まれた。

もちろん確実なことは言えない。だが、もし本当にウクライナがロシアを撃退することができれば、それはヨーロッパの安全保障のパラダイムシフトになるだろう。そして欧米諸国政府は、その可能性に備えておく必要がある。

というのも、1980年代末に始まったソ連崩壊が、東ヨーロッパの共産主義体制の崩壊をもたらしたように、今回のウクライナ戦争でロシアが弱体化すれば、これまで親ロシア体制が維持されてきた旧ソ連諸国にドミノ的に影響が及ぶ可能性がある。

例えば、ウクライナの北西に隣接するベラルーシ。ここで長年権力の座に居座ってきたアレクサンドル・ルカシェンコ大統領も、その地位が危うくなるかもしれない。

そもそも、2020年8月の大統領選に勝利したのは親欧米派の野党候補であって、ルカシェンコは不正に勝利を横取りしたにすぎないというのが内外の一般的な見方になっている。その上、選挙結果に抗議するデモを厳しく弾圧したことで、彼の大統領としての正当性は地に落ちた。

ロシア支援に反対するベラルーシ国民

さらに今回、ロシアがウクライナに侵攻するための拠点を提供したことは、ベラルーシ国内で猛批判を巻き起こした。鉄道を破壊してロシア軍の移動を阻止する動きもあれば、サイバーパルチザンと名乗るハッカー集団によるルカシェンコ政権攻撃も激化している。また、義勇軍を組織して、ウクライナ防衛に加わるベラルーシ人もいる。

ルカシェンコが、あくまでロシアのウラジーミル・プーチン大統領に同調する決断を下した以上、ロシアが敗北すれば、ルカシェンコが道連れになる可能性は十分ある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

仏サービスPMI、4月速報1年ぶりに50上回る 製

ビジネス

ECBは6月利下げ、それ以降は極めて慎重に臨むべき

ビジネス

日本の格付け「A」に据え置き、アウトルック「安定的

ビジネス

超長期国債中心に円債積み増し、リスク削減で国内株圧
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバイを襲った大洪水の爪痕

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    冥王星の地表にある「巨大なハート」...科学者を悩ま…

  • 9

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 7

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中