木星の衛星「エウロパ」では海中の雪が浮き上がって氷床が形成されている
木星の衛星「エウロパ」の海はどんな様子なのか...... (C)Helen Glazer 2015
<エウロパの氷床は、氷床下の海水で生成された氷片が海面まで浮き上がってくる「晶氷」で形成されている可能性がある......>
木星の衛星「エウロパ」では、深さ60~150キロの海に厚さ15~25キロの氷床が浮かぶ。そのため、地球の4分の1の直径にもかかわらず、地球の海洋をすべて合わせた量の2倍の水が存在すると考えられている。
アメリカ航空宇宙局(NASA)では、エウロパの探査機「エウロパ・クリッパー」を2024年10月に打ち上げる計画をすすめている。約50回にわたってエウロパの上空25キロまで接近通過し、詳細な観測を通じて「生命の維持に適した条件を備えているかどうか」を調査するのが目的だ。
海水で生成された氷片が海面まで浮き上がってくる
米テキサス大学オースティン校の研究チームは、エウロパの氷床やその下の海洋を観測する「エウロパ・クリッパー」の氷貫通レーダーを開発している。この開発に関連し、「エウロパの氷床がどのような構造になっているのか」について解明を試みた。
学術雑誌「アストロバイオロジー」(2022年8月号)で掲載された研究論文では、「エウロパの氷床は、氷床下の海水で生成された氷片が海面まで浮き上がってくる『晶氷』で形成されている可能性がある」と明らかにしている。
エウロパの氷床には「晶氷」が多く存在する
エウロパは、南極大陸のように温度勾配が小さく、深さによる温度変化が少ないと考えられている。そこで研究チームは、南極大陸で形成される氷床をモデルとして、エウロパの氷床を類推した。
南極大陸の氷床は、既存の氷床の表面から形成される「凝固氷」と、結氷温度まで低下した海水の氷片が水中を上昇して浮き上がり、氷床底につく「晶氷」に大別される。研究チームの計算では、エウロパの氷床には「晶氷」が多く存在する可能性があると示された。
南極大陸の氷床を観測したところ、「凝固氷」は海水塩分の10%を含むのに対して、「晶氷」はわずか0.1%にとどまっていた。つまり、エウロパの氷床はこれまでの想定よりもずっと純度が高い可能性があり、これが事実であれば、その強度や氷床中での熱の動きなど、あらゆるものが影響を受けることとなる。
NASAジェット推進研究所(JPL)の宇宙生物学者スティーブ・ヴァンス博士は、今回の研究成果について「海洋とその仕組みについて考えるうえで、まったく新しい可能性を切り拓いている」と位置づけるとともに、「『エウロパ・クリッパー』によるエウロパの氷床の分析に備える環境を与えるものだ」と評価している。