zzzzz

最新記事

木星

木星の衛星「エウロパ」では海中の雪が浮き上がって氷床が形成されている

2022年9月2日(金)18時00分
松岡由希子

木星の衛星「エウロパ」の海はどんな様子なのか...... (C)Helen Glazer 2015

<エウロパの氷床は、氷床下の海水で生成された氷片が海面まで浮き上がってくる「晶氷」で形成されている可能性がある......>

木星の衛星「エウロパ」では、深さ60~150キロの海に厚さ15~25キロの氷床が浮かぶ。そのため、地球の4分の1の直径にもかかわらず、地球の海洋をすべて合わせた量の2倍の水が存在すると考えられている。

アメリカ航空宇宙局(NASA)では、エウロパの探査機「エウロパ・クリッパー」を2024年10月に打ち上げる計画をすすめている。約50回にわたってエウロパの上空25キロまで接近通過し、詳細な観測を通じて「生命の維持に適した条件を備えているかどうか」を調査するのが目的だ。

海水で生成された氷片が海面まで浮き上がってくる

米テキサス大学オースティン校の研究チームは、エウロパの氷床やその下の海洋を観測する「エウロパ・クリッパー」の氷貫通レーダーを開発している。この開発に関連し、「エウロパの氷床がどのような構造になっているのか」について解明を試みた。

jpegPIA24321-scaled.jpeg

NASA の探査機エウロパ クリッパーのイラスト。 2024年に打ち上げられる予定の宇宙船は、氷を貫通するレーダー装置を搭載する。 NASA/JPL-Caltech


学術雑誌「アストロバイオロジー」(2022年8月号)で掲載された研究論文では、「エウロパの氷床は、氷床下の海水で生成された氷片が海面まで浮き上がってくる『晶氷』で形成されている可能性がある」と明らかにしている。

エウロパの氷床には「晶氷」が多く存在する

エウロパは、南極大陸のように温度勾配が小さく、深さによる温度変化が少ないと考えられている。そこで研究チームは、南極大陸で形成される氷床をモデルとして、エウロパの氷床を類推した。

南極大陸の氷床は、既存の氷床の表面から形成される「凝固氷」と、結氷温度まで低下した海水の氷片が水中を上昇して浮き上がり、氷床底につく「晶氷」に大別される。研究チームの計算では、エウロパの氷床には「晶氷」が多く存在する可能性があると示された。

南極大陸の氷床を観測したところ、「凝固氷」は海水塩分の10%を含むのに対して、「晶氷」はわずか0.1%にとどまっていた。つまり、エウロパの氷床はこれまでの想定よりもずっと純度が高い可能性があり、これが事実であれば、その強度や氷床中での熱の動きなど、あらゆるものが影響を受けることとなる。

NASAジェット推進研究所(JPL)の宇宙生物学者スティーブ・ヴァンス博士は、今回の研究成果について「海洋とその仕組みについて考えるうえで、まったく新しい可能性を切り拓いている」と位置づけるとともに、「『エウロパ・クリッパー』によるエウロパの氷床の分析に備える環境を与えるものだ」と評価している。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

アングル:肥満症薬に熱視線、30年代初頭までに世界

ワールド

イスラエル、新休戦案を提示 米大統領が発表 ハマス

ビジネス

米国株式市場=ダウ急反発、574ドル高 インフレ指

ワールド

共和党員の10%、トランプ氏への投票意思が低下=ロ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
2024年6月 4日号(5/28発売)

強硬派・ライシ大統領の突然の死はイスラム神権政治と中東の戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    F-16はまだか?スウェーデン製グリペン戦闘機の引き渡しも一時停止に

  • 2

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入、強烈な爆発で「木端微塵」に...ウクライナが映像公開

  • 3

    インドで「性暴力を受けた」、旅行者の告発が相次ぐ...なぜ多くの被害者は「泣き寝入り」になるのか?

  • 4

    「人間の密輸」に手を染める10代がアメリカで急増...…

  • 5

    「ポリコレ」ディズニーに猛反発...保守派が制作する…

  • 6

    「集中力続かない」「ミスが増えた」...メンタル不調…

  • 7

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 8

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像を…

  • 9

    34罪状すべてで...トランプに有罪評決、不倫口止め裁…

  • 10

    都知事選の候補者は東京の2つの課題から逃げるな

  • 1

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 2

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 3

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃がのろけた「結婚の決め手」とは

  • 4

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲー…

  • 5

    ハイマースに次ぐウクライナ軍の強い味方、長射程で…

  • 6

    仕事量も給料も減らさない「週4勤務」移行、アメリカ…

  • 7

    都知事選の候補者は東京の2つの課題から逃げるな

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    少子化が深刻化しているのは、もしかしてこれも理由?

  • 10

    メキシコに巨大な「緑の渦」が出現、その正体は?

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 8

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 9

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 10

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像を…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中