最新記事

光熱費

シャワーは職場で食事は1日1回 急騰する光熱費が欧州の家計直撃

2022年9月1日(木)11時27分

過去の危機より値上がり

キートリーさんは4月に失業し、現在は毎月600ポンドの生活保護で暮らす。その半分は家賃の支払いに充て、残りで生活必需品をかろうじて賄っている。

今は食事も1日1回しか取らず、エネルギー消費を最低限に抑えているにもかかわらず、収入に占めるエネルギー支出は15%を超える。

フィナンシャル・フェアネス・トラストが行った調査によると、英国の3分の1の家庭は調理家電やオーブンの使用、またシャワーを浴びる回数を減らしている。この調査にかかわったブリストル大学のシニアリサーチ・アソシエート、ジェイミー・エバンス氏は「人々はエネルギー費用圧縮のため多大な努力をしているが費用は上がり続けている。だからこそわれわれは政府に追加的な対応を求めたい」と訴えた。

イングランド地方の南東部に住むドーン・ホワイトさん(59)は腎不全を抱えており、このまま光熱費の上昇が止まらなければ命をつなぐための治療費が払えなくなると不安を募らせている。ロイターに「1週間に5回、20時間の(人工透析)機器がなくなれば、私は生きていられない」と打ち明けた。

国際エネルギー機関(IEA)の指数によると、ほとんどの欧州先進国の家庭に適用されるガス価格は今年初め、1970年代や80年代、2000年代に起きた過去のエネルギー危機のピーク時を超えた。

欧州は他の先進地域に比べても負担が重い。今年第1・四半期末までの段階では、経済協力開発機構(OECD)のガス指数はまだ過去の危機のピークに達していなかった。

IEAのデータを1978年までさかのぼると、過去40年の平均的な天然ガス価格は確かに米国家庭向けの方が高い。しかし欧州家庭向け価格は今年になって米国家庭向けを上回った。

独伊が最も痛手

欧州連合(EU)加盟国の中で、ガス価格高騰で最も痛手を被っているのはイタリアとドイツの家庭であることを、IEAのデータは示している。

イタリアの平均的家庭のエネルギー支出(主にガスと電気)が世帯支出に占める比率は今年7月、2019年の3.5%から5%に上昇した。OECDのデータによると、この7月の水準は1995年以降で一番高い。

価格ポータルのチェック24が集めたデータからは、ドイツ家庭の7月のエネルギー費用も、昨年に比べて2倍以上に膨らんだことが見て取れる。ミッドテラス住戸に住む家庭に適用される暖房油の5月分価格は前年比78%上がった。

フランクフルト北東のニッダに暮らすエルカン・エルデンさん(58)は、自身が働くミネラルウオーター工場で「仕事終わりにシャワーを浴び、ひげをそる毎日だ」と話した。

(Bozorgmehr Sharafedin記者、Canan Sevgili記者)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2022トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

EUと米、ジョージアのスパイ法案非難 現地では抗議

ビジネス

EXCLUSIVE-グレンコア、英アングロへの買収

ワールド

中国軍機14機が中間線越え、中国軍は「実践上陸訓練

ビジネス

EXCLUSIVE-スイスUBS、資産運用業務見直
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中