最新記事

ミャンマー

3つの矛盾が示す、ミャンマー軍事政権の邦人拘束と「ずさん捜査」

Slipshod Accusations

2022年8月29日(月)15時15分
北角裕樹(ジャーナリスト)
在日ミャンマー人

久保田の解放を求める在日ミャンマー人ら Issei Kato-REUTERS

<「まずは入国日から間違っている」──ドキュメンタリー作家・久保田徹の収監が長期化するなか、拘束経験のある日本人ジャーナリストが当局の矛盾を指摘。国際的孤立を深め、暴走する国軍と粘り強い交渉を続ける大使ら>

「僕の罪は何ですか?」

ミャンマーで拘束された久保田徹(26)は、拘束後23日目で初めて認められた日本大使館員との電話で、自分にかけられた嫌疑について尋ねたという。

これはミャンマー当局が起訴された人間に十分な説明をしていないことを物語る。拘束から1カ月が過ぎ、公正な法手続きを無視したずさんな捜査が行われていることが、次第に明らかになってきた。

久保田は慶応大学在学中からミャンマーを十数回にわたって取材し、数々の短編作品を発表してきたドキュメンタリー作家だ。ロンドンの大学院で映像制作を学び、気さくな人柄で取材先の懐に飛び込み信頼を得るのが得意だった。

今回はあるミャンマー人を主人公にした作品を撮るために渡航。関係者によると、7月30日に最大都市ヤンゴンで短時間で解散する「フラッシュモブ型デモ」を撮影し、その直後に駆け付けた捜査当局によって拘束された。

クーデターにより誕生した国軍の統治機関「国家行政評議会」のゾーミントゥン報道官は8月17日の記者会見で、観光ビザで入国した入国管理法違反とデモに参加した刑法505条違反(共に起訴済み)に加え、イスラム系少数民族ロヒンギャについてのドキュメンタリーを制作してデマを広めた電子通信に関する法律の違反容疑で捜査中と主張。

「法に従い判決を下す」と厳しい態度を示した。しかし国軍の発表には、少なくとも3つの矛盾点が指摘できる。

1つ目は入国日。国軍側の文書や会見での発表では、彼が観光ビザで入国したのは7月1日。しかし友人らの調査によると、空路で入国したのは14日のはずである。2日に東京で食事を共にした友人もおり、1日に入国したというのは明らかに誤りだ。

次に、デモ参加の証拠として報道官が示した、久保田ら4人が横断幕を持って立つ写真。逮捕された4人しか写っていないことなどから「逮捕後に捜査当局が撮影したものではないか」(ミャンマーのベテラン記者)との見方が根強い。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ネスレが肥満薬服用者向けに新商品販売へ、栄養補給の

ビジネス

ペプシコ、加州で電動車両拡大へ テスラとフォードの

ワールド

英、ウェールズ北部に大規模な原発新設計画 企業と協

ビジネス

午前の日経平均は続落、米エヌビディア決算控えポジシ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 3

    「目を閉じれば雨の音...」テントにたかる「害虫」の大群、キャンパーが撮影した「トラウマ映像」にネット戦慄

  • 4

    9年前と今で何も変わらない...ゼンデイヤの「卒アル…

  • 5

    ベトナム「植民地解放」70年を鮮やかな民族衣装で祝…

  • 6

    服着てる? ブルックス・ネイダーの「ほぼ丸見え」ネ…

  • 7

    高速鉄道熱に沸くアメリカ、先行する中国を追う──新…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    「韓国は詐欺大国」の事情とは

  • 10

    中国・ロシアのスパイとして法廷に立つ「愛国者」──…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 8

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 9

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 10

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中