最新記事

朝鮮半島

現代の戦争における「数的優位」の意味...ロシアの苦戦に学ぶ北朝鮮脅威への教訓

Lessons from Ukraine

2022年7月29日(金)10時41分
ユ・ジフン(韓国海軍中佐) エリック・フレンチ(ニューヨーク州立大学准教授)
韓国海軍の演習

環太平洋合同演習(リムパック)に参加する韓国海軍の部隊(2022年7月、ハワイ) AJA BLEU JACKSON-U.S. NAVY

<ウクライナでロシア軍が「意外にも」圧勝できなかった理由から、朝鮮半島有事について米韓同盟が学ぶべきこと>

ロシアがウクライナに攻め込んでから5カ月余り。今なお続く戦争は、米韓同盟が北朝鮮を抑止するための重要な教訓を物語っている。

第1の教訓は、軍備の数的優位だけで、ロジスティクスや訓練、指揮系統、航空支援の不足を補うことはできないということだ。

ロシア軍は、数字上は人員も武器もウクライナ軍を明らかに圧倒している。しかし、当初の見込みと違って首都キーウ(キエフ)の早期の占領に失敗し、ドンバス地方を完全に掌握できずに壊滅的な損失を被っている。

原因はロシア軍の重大な欠点にあると、アナリストは分析する。まず、軍需物資や食料、燃料の供給が十分ではない。さらに、訓練や統率が不十分で、連合部隊による効果的な戦闘が行えない。例えば、歩兵の支援が足りないまま展開される機甲部隊は、対戦車兵器に弱い。そして、ウクライナ上空の制空権を確保できず、空軍力で攻撃を支援する能力が損なわれている。

これは米韓同盟にとって明るい兆しだ。朝鮮人民軍の現役兵力は95万人で、韓国軍の55万人の2倍近い。しかし、韓国への大規模な攻撃を維持できるだけの燃料と輸送能力がなく、平時でさえ慢性的な食料不足に悩まされている。

さらに、訓練が不十分で、最近の戦闘経験もない。時代遅れの空軍は、格好の標的にさえなりかねない。全体として、朝鮮人民軍は圧倒的規模にもかかわらず、大々的な攻撃作戦ではロシア軍よりはるかに苦戦する可能性が高い。

「裸の王様」の無謀な決断

第2の教訓は、侵攻に至るまでの意思決定にある。情報が閉ざされた指導者は、自分たちが武力紛争で勝利する能力を過大評価しやすいのだ。

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の周囲はイエスマンが多く、肯定的な見通ししか伝わらない傾向があったとみられる。それが勝利を過信させ、危険で、あまりに野心的で、計画性のない攻撃を決断させたのかもしれない。

北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記も、粛清を繰り返して権力を集中させ、献身的な忠誠者で周りを固めているとされる。こうした状況は、自国の軍事力に対する評価をゆがめる可能性が高い。米韓同盟としては、統合された抑止力の強さと信頼性が肝要になる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 7

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 8

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 8

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中