最新記事

ウクライナ情勢

ウクライナが求める「勝てるだけの武器」がグローバルな食糧危機を救う

Breaking the Black Sea Blockade

2022年7月14日(木)14時49分
ブライアン・クラーク、ピーター・ラウ(共に米ハドソン研究所上級研究員)
HIMARS

ウクライナ東部でHIMARS車両に搭載されたロケット弾を示すウクライナ軍の部隊長(7月1日) ANASTASIA VLASOVA FOR THE WASHINGTON POST/GETTY IMAGES

<現在、ロシア領内を攻撃可能な武器を提供しないという「暗黙の了解」がある。しかし、軍用ドローン「グレーイーグル」で商船の護衛と黒海封鎖を解除でき、ウクライナに眠る2500万トンの小麦輸出が可能に>

ロシアがウクライナに侵攻して以来、アメリカのバイデン政権とその西側同盟国が最も気を配ってきたことは何か。

この戦争をウクライナの国境と黒海の内側に封じ込めること、そしてロシアとの直接対決と解釈されかねない行為を避けることだ。

ウクライナ側に提供してきた武器を見れば分かる。仮にNATO軍がロシアと戦うなら射程の長いミサイルや火砲を投入し、空軍力を駆使し、敵機の侵入を阻む飛行禁止空域を設定するはずだ。

しかし今までウクライナ側に供与してきたのはロシア軍と同程度の射程のミサイルや火砲、それに小型のドローン程度だ。

それでも初期段階ではロシア軍の進撃を阻むことができた。しかし戦力が同程度では決着がつかず、現在の東部・南部戦線を見れば明らかなように、戦闘は長引く。結果として先の見えない消耗戦に追い込まれ、ウクライナ兵や市民の死傷者は増える一方だ。

これではウクライナ軍を生命維持装置につないでおくようなもの。ひたすら戦い続けるしかないが、それでもロシア軍の容赦ない砲撃で町や村は次々と抹殺されていく。

ここへきて高機動ロケット砲システムHIMARS(ハイマース)や多連装ロケットシステム(MLRS)など、より強力な兵器が投入されているが、それでも最前線の戦況は変わっていない。

こうやって戦域をウクライナと黒海に限定しておけば、NATOとロシアの直接対決は回避できるかもしれない。だが、そのせいでウクライナの農家が生産した2500万トンの穀物が輸出できず、畑のサイロで眠っている。その結果、飢餓に直面している国もたくさんある。

「グレーイーグル」が必要

今はちょうど小麦の収穫期だが、前年の収穫の多くが輸出できずに残っている。だから今年の収穫を保管する場所がない。ウクライナ政府は陸路での輸出ルートを確保しようとしているが、時間的な制約もあって実効性のある対策は難しい。

ちなみに、いま市場に出回っている「ウクライナ産」小麦の大半はロシア軍が占領地で略奪したもので、クリミア半島から直接、あるいはロシアの属国シリアなどを経由して輸出されている。

世界銀行によると、この戦争と海上封鎖のせいで、今年は世界各地で深刻な食糧不足に見舞われる人が、2020年比で4000万人近く増えるものと予想される。既に小麦粉やパンなど基本的な食料品の値上がりや燃料価格の高騰が多くの途上国で社会不安を引き起こしている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、ウクライナ軍事訓練員派遣の予定ない=軍制服組ト

ビジネス

NY外為市場=ドル小幅高、FRB当局者は利下げに慎

ビジネス

米国株式市場=ナスダック最高値、エヌビディア決算控

ワールド

ICC、ネタニヤフ氏とハマス幹部の逮捕状請求 米な
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 3

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 4

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 5

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 6

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 7

    ベトナム「植民地解放」70年を鮮やかな民族衣装で祝…

  • 8

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 9

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 10

    「親ロシア派」フィツォ首相の銃撃犯は「親ロシア派…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 5

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 6

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 7

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 8

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された─…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中