最新記事

ヘルス

睡眠補助サプリで、子供の「中毒」事故が急増中──気を付けるべきことは?

Taking Too Much Melatonin

2022年7月7日(木)17時31分
エマ・ウォーレンブロック
睡眠トラブル

新型コロナウイルスのパンデミックに伴い、不眠を訴える人が増えたが、安易にサプリに頼るのは考えもの KINGA CICHEWICZ/UNSPLASHーSLATE

<アメリカでは店頭で簡単に手に入るが、子供の故意または意図しない摂取が問題に。安易に与えず「薬品」と考えて慎重に扱うべきだ>

米疾病対策センター(CDC)によると、子供のメラトニン中毒が増えている。2012年から21年にかけて、故意または意図せずにメラトニンを摂取した(例えば好奇心旺盛な子がテーブルのメラトニンボトルに手を伸ばすなど)子供の人数は530%増加した。この10年間で病院その他の医療施設で治療を必要としたケースは2万7795件。死者も2人いる。

この事実を意外に思う人もいるかもしれない。アメリカでは、メラトニンは「天然由来」の睡眠補助サプリメントとして販売されている。

メラトニンは太陽が沈むと脳の松果体という部位から分泌され、サーカディアンリズム(概日リズム)と呼ばれる睡眠・覚醒のサイクルの「睡眠」部分を誘発する。健康な成人では、1晩に10~80マイクログラムのメラトニンが分泌される。

市販のメラトニンは、松果体からの分泌が十分でない場合、または体内時計の入眠時刻を「リセット」したい場合に助けとなる可能性がある。用量は1回当たり0.3ミリグラムから60ミリグラム。体が1晩に分泌する量の約1000倍だ。大半の食品雑貨店や薬局で買えるメラトニンの用量は5~10ミリグラム程度だが、10ミリグラムでも多すぎる場合がある。

EU諸国やイギリス、日本、オーストラリアの多くでは何年も前から、処方箋なしで買える市販薬としての販売は認められていない。慢性的な睡眠障害ではなく急性の不眠症状を改善するために、効き目の穏やかな錠剤を少ない用量で数週間分処方されることがほとんどだ。

過剰摂取で睡眠の質が悪化する恐れ

毎晩ではなく、週に2、3回服用するように医師から指示される場合もある。その理由は、メラトニンを過剰に摂取すると概日リズムを乱し、睡眠の質をさらに悪化させる恐れがあるからだ。

アメリカでは、メラトニンはチェーンのドラッグストアやビタミン専門ショップで普通に売られている。そのため軽い気持ちで多量に摂取したり、子供に飲ませても大丈夫だろうと考えがちだ。

だがアメリカの睡眠専門家や医師も、まずは0.5ミリグラムや1ミリグラムといった最低限の量を数日間試し、それでも効果がない場合に量を増やすよう勧めている。成人の場合、メラトニンを大量に摂取しても頭痛や吐き気、めまいなどの症状が出る程度で、副作用はおおむね軽い。だが、子供はずっと少ない量でも悪影響が出る可能性がある。

過剰摂取に関するCDCの調査によると、ほとんどの子供が全く問題なく過ごしているが、大量に摂取すると高血圧または低血圧になることがあり、心血管に障害がある場合は危険だ。嘔吐の症状が出ることもある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

FRBの金融政策は適切、12月利下げに慎重=ボスト

ビジネス

米経済全体の景気後退リスクない、政府閉鎖で110億

ワールド

米、ウクライナ和平協議の「進展」歓迎 安全の保証問

ワールド

アングル:労災被害者の韓国大統領、産業現場での事故
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナゾ仕様」...「ここじゃできない!」
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 5
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    【銘柄】いま注目のフィンテック企業、ソーファイ・…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 10
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中