最新記事

スポーツ

戦地でも避難所でも「歓喜の声」 W杯予選ウクライナ勝利が「2時間の幸福」を生んだ

Zelensky Says Soccer Victory Offers Ukrainians 'Two Hours of Happiness'

2022年6月3日(金)16時48分
マイケル・ワシウラ
サッカーを見るウクライナ兵

シェルター内でウクライナ対スコットランドの試合を見るウクライナ領土防衛隊の兵士(6月1日) Vitalii Hnidyi-REUTERS

<サッカーW杯予選でウクライナがつかみ取った勝利は、多くの国民を勇気づけるとともに、ひとときだけ戦争のつらさを忘れる時間をくれた>

6月1日、FIFA(国際サッカー連盟)ワールドカップ(W杯)カタール大会欧州予選プレーオフA組準決勝で、ウクライナ代表チームが、スコットランドを3-1で破った。もともとは3月に予定されていたこの試合は、2月24日にロシアがウクライナへの全面的な侵攻を開始した影響で延期されていた。

この結果を受け、現在も続く戦争の指揮をとるウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領はSNSに、この勝利はウクライナ人に「2時間の幸福を......、わが軍と国全体に喜びを与えてくれた」というメッセージを書きこんだ。もちろんウクライナ国民たちは、国内にいるか国外にいるかを問わず、このスポーツイベントを単なる試合以上のものと捉えていた。

ニューズウィークは、ジョージアのトビリシにある自由広場にほど近い居酒屋で取材を行った。同店のボックス席で自国チームを応援していたキエフ生まれのジェニアとロマンは、試合終了のホイッスルが鳴ったあと、「この勝利は特別なものだ」と語った。

「これは普通の試合ではない」と、ジェニアは話した。「兵士たちが塹壕のなかにいて、国を守るために文字どおりすべてを捧げているときには、サッカーのユニフォームを着た人たちにも、同じくらいの努力を示して、力を注ぐ義務がある。彼らはまさにそれをやり遂げた。本当に勇気づけられた」

試合が始まるとロシア軍がロケット弾を撃ち始めた

従軍中のウクライナ軍の兵士たちも、同じように勇気づけられた。「この勝利はわれわれ全員に、特大の前向きな力を与えてくれた」。オデッサ地域にいる「領土防衛隊」の兵士、アレクサンドル・ベスパリイはニューズウィークにそう語った。

「われわれはプロジェクターを使って観戦する計画だったが、試合の最初から、オークの連中(ロシア軍)がウクライナ中でロケット弾を撃ち始めたから、塹壕に下りて、スマートフォンで観戦しなければならなかった」

「前線の兵士たちも、きっと見ていたはずだ」とベスパリイは続けた。「少なくとも、そのとき直接交戦していなかった兵士たちは」

ベスパリイのきょうだいであるアンナも観戦していた。ただしその場所は、3月にキエフから避難し、パートナーとともに借りている、比較的安全なウクライナ西部の小さなコテージだ。

「普段、サッカーは見ない」と、アンナは取材に答えた。「でも、ウクライナを応援したかった。試合はとても緊迫していて、試合中ずっと、パートナーの手を強く握っていた。すごく緊張していたから」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米5月住宅建設業者指数45に低下、1月以来の低水準

ビジネス

米企業在庫、3月は0.1%減 市場予想に一致

ワールド

シンガポール、20年ぶりに新首相就任 

ワールド

米、ウクライナに20億ドルの追加軍事支援 防衛事業
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 5

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    奇跡の成長に取り残された、韓国「貧困高齢者」の苦悩

  • 8

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中