最新記事

沖縄の論点

加熱する安保議論には、沖縄の人々をどう守るかという視点が欠けている

OKINAWA, VICTIM OF GEOGRAPHY

2022年6月24日(金)17時05分
シーラ・スミス(米外交問題評議会上級研究員)
沖縄駐留米軍

返還前の沖縄からベトナムに向けて飛び立つ米軍機(1970年) 読売新聞/AFLO

<50年前の本土復帰もむなしく、沖縄の基地負担は増え、「拡大抑止」の要石にされてきた。そして今、米中戦争の最前線となる懸念が強まっている。台湾危機が勃発すれば、沖縄住民の支持と協力が不可欠になるが>

半世紀前の沖縄返還交渉は歴史が大きく動く状況で行われた。ベトナム戦争の泥沼化で世界中で反戦のうねりが高まり、アメリカの統治下にあった沖縄でも米軍基地が北ベトナム空爆の拠点として使われることに激しい抗議の声が上がった。

時の首相・佐藤栄作は反戦平和を求める世論に背中を押され、琉球諸島と大東諸島の返還を求めリチャード・ニクソン米大統領(当時)との交渉に乗り出した。

220628cover.jpgもっとも交渉進展の背景にあったのは反戦運動の高まりだけではない。当時アメリカは世界戦略を練り直し始めていた。ベトナム戦争はアメリカ社会をも引き裂き、米財政を圧迫。ニクソン政権は東西冷戦における自国の役割の見直しを迫られたのだ。

ニクソンは外交専門誌フォーリン・アフェアーズに寄せた論文で、米軍は今後アジアで地上戦を行うべきではないと主張。アジアの同盟国はアメリカ頼みから脱し、防衛力を拡大すべきだと論じた。

私たちは今、当時と同じように大きな地政学的変化のただ中にある。軍事大国となった中国は、第2次大戦後に成立したアメリカ主導のアジアの安全保障体制に揺さぶりをかけている。

アメリカの国内政治の風向きも変わり、米軍が他国の防衛に過度に責任を持つことに多くのアメリカ人が異を唱え始めた。そのためアジアにおけるアメリカの同盟国は「いざというときアメリカは守ってくれるのか」と不安を募らせている。

沖縄はアジアにおける米中2つの超大国の勢力圏のはざまに位置している。しかも太平洋戦争末期に日米両軍の激戦の舞台となり、壊滅的な被害を受けたことは今も人々の記憶に生々しく刻まれている。

沖縄の戦後史はアメリカの戦略目標によって形成されたと言っても過言ではない。返還の条件をめぐり、日米の交渉担当者は水面下で駆け引きを続けた。特に問題になったのは沖縄にある多数の米軍基地の役割だ。

米軍の希望は返還後も柔軟な基地使用が保証されること。ニクソン政権はそれを担保しつつ施政権を日本に移譲する返還の枠組みをまとめた。

厄介な問題は核兵器の扱いだった。非核三原則を掲げる佐藤は表向き「核抜き・本土並み」返還を主張したが、佐藤の密使を務めた若泉敬が有事の核再持ち込みを可能にする秘密文書を作成。日米間で密約が取り交わされた(後に若泉は自著でその交渉内容をつまびらかにした)。

この密約により日本はアメリカの核の傘の下に置かれ、アメリカの核抑止力を盾とする「拡大抑止」が日本の防衛戦略の要となった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

世界EV販売は年内1700万台に、石油需要はさらに

ビジネス

米3月新築住宅販売、8.8%増の69万3000戸 

ビジネス

円が対ユーロで16年ぶり安値、対ドルでも介入ライン

ワールド

米国は強力な加盟国、大統領選の結果問わず=NATO
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親会社HYBEが監査、ミン・ヒジン代表の辞任を要求

  • 4

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 5

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    ロシア、NATOとの大規模紛争に備えてフィンランド国…

  • 9

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 10

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 8

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中