「中国は人権基準を満たしている」──プロパガンダに加担した「人権の守護者」
A Failed Mission Taints Legacy
チリの独裁者アウグスト・ピノチェトはバチェレの父親を投獄し、その後バチェレと母親は自宅軟禁された。当時の経験から、強制収容所にいるウイグル人や少数民族がどんな目に遭っているか分からないのか。香港市民やチベット人やキリスト教徒が、法輪功の信者や弁護士やブロガーや反体制活動家が経験していることに思いが至らないのか。
バチェレは彼らの苦難に思いをはせるどころか、残虐行為を不問に付し、習にプロパガンダをまき散らす機会を与えたのだ。
バチェレの訪中は「新疆公安ファイル」の流出と重なった。これは、新疆ウイグル自治区の収容所の内幕を伝える文書や発言、写真や動画から成る大量のデータだ。バチェレはこのファイルについて全く触れなかった。
国連の40人余りの特別報告者は6月10日、中国に対し、「国連の人権システムに全面的に協力」することと、「中国における重大な人権侵害と基本的自由の弾圧の申し立てを受けた独立した専門家」による完全な調査の受け入れを求めた。バチェレの身内である国連の人権専門家が、彼女を暗に批判したことになる。
この声明の前に、世界各国の学者40人がバチェレの中国訪問を非難し、記者会見での発言に「極めて困惑した」と述べ、報告書の発表を求めた。6月8日には、ウイグル、チベット、香港などの人権保護活動を代表する230以上の人権団体が、バチェレの辞任を求める共同声明を出した。
バチェレの信用は地に落ち、取り返しのつかない汚点を任期にもたらした。彼女も就任後しばらくは、香港での警察の横暴やミャンマーでの残虐行為について明確に発言していたのだが、今回の訪中の大失敗で全てを台無しにした。
もしかするとバチェレはそれに気付き、周囲から押し出される前に、自ら飛び降りたのかもしれない。