最新記事

アメリカ

解放ムードにお祭り騒ぎ──「コロナ収束を信じたい心理」が強すぎるアメリカ

THE PRICE OF COMPLACENCY

2022年6月8日(水)16時25分
フレッド・グタール(本誌記者)

3月に議会で可決された総額1兆5000億ドル規模の2022年度予算案は、156億ドルの新型コロナ対策費を除外することでようやく成立した。妥協を探る交渉で、この金額はさらに100億ドルまで減額された。

新型コロナはもはや緊急課題ではないようにも見える。4月半ばの時点でアメリカの新規感染者数は1日4万人弱。21年1月のピーク時には4000人以上いた死者も、1日800人以下に減った。欧州とアメリカの一部で流行しているオミクロン株BA.2系統は、入院や死亡を急増させるとは考えられていない。デルタ株より重症化リスクが低く、多くの人がワクチン接種や過去の感染により免疫ができているためだ。

過去2年間の経験から分かるように、新型コロナ感染症は潮の満ち干のように増減を繰り返す傾向がある。新たな変異株がこれ以上現れないのであれば、免疫がなくウイルスに感染しやすい人々の数は減っていくので、感染の波は理論上、次第に小さくなると推定できる。

問題は、このバラ色のシナリオを狂わせる複数の要因が存在することだ。1つには、ワクチンの防御効果は時間とともに弱くなる傾向があること。ある研究では、95%の防御力が4~5カ月で78%に低下することが示唆されている。

もう1つの要因は、ウイルスそのものだ。新型コロナウイルスは状況の変化に対する驚異的な適応力を示し、問題を引き起こし続けてきた。徐々に弱毒化して、最終的には普通の風邪のような存在になるという説は今も根強いが、ウイルスは必ずしもそのように進化するとは限らない。

進化の観点から見て、ウイルスにとって重要なのはただ1つ、自らが生き残ることだ。より多くの人々を殺すことがウイルス自身の拡散を妨げない限り、むしろ毒性が強くなる可能性もある。

新型コロナウイルスは人類にとって全く新しいウイルスだったため、世界中で自由に感染を広げることができた。感染者が100人と接触すれば、原理的には全員をウイルスに感染させることが可能だった。

しかし、ワクチンや以前の感染で人々に免疫ができると、感染拡大に歯止めがかかり始めた。感染者が100人と接触しても、今度は例えば半数が免疫を持っている可能性がある。つまり、ウイルスが感染を広げる機会は半分に減ることになる。

その結果、ウイルスの生き残りに関して感染力の強い変異株の優位性が大きく高まった。昨年後半にデルタ株への置き換わりが急速に進んだのは、それが原因だった。

デルタ株は、それ以前に流行していた株に比べて多くのコピーを作る能力があり、しかもウイルスが鼻や口で増殖しやすい傾向があった。そのため感染者が息を吐くたびに、それまでの株より多くのウイルスが周囲の空気中に飛散したのだ。

見落とせないのは、デルタ株は多くの人命を奪ったが、それによって感染力が低くなることはなかったという点だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米大統領選、不公正な結果なら受け入れず=共和上院議

ワールド

米大統領補佐官、民間人被害最小限に イスラエル首相

ワールド

ベゾス氏のブルーオリジン、有人7回目の宇宙旅行に成

ビジネス

中国、最優遇貸出金利据え置き 市場予想通り
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 5

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 6

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 7

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 8

    「すごく恥ずかしい...」オリヴィア・ロドリゴ、ライ…

  • 9

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 10

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中