最新記事

北朝鮮

コロナ感染急増の北朝鮮で、新たな「謎の病」が流行 800世帯罹患、患者隔離

2022年6月24日(金)17時50分
青葉やまと

ワクチン拒否の北朝鮮

北朝鮮は今回の「深刻な腸の病のエピデミック」以前から、コロナとの厳しい戦いを繰り広げてきた。5月に発熱者の急増を認めて以来、計数百万人という症例者が報告されている。事態を受け北朝鮮政府は一時、非常事態を宣言した。

ワクチンのない北朝鮮では主要なコロナ対策を鎖国政策に頼っているが、その甲斐なく発熱の報告が急増している。世界各国の保健機関は、こうした発熱者の多くが新型コロナ患者だと考えている。北朝鮮は日別感染者数ではなく発熱者数を発表しているが、これは新型コロナ用の十分な検査器具がないことの象徴でもある。

国際社会からはワクチン寄贈の申し出が寄せられているものの、金正恩政権はこれを頑なに拒否してきた。世界保健機関(WHO)などが主導するワクチン公平分配の枠組み「COVAX」は、北朝鮮に繰り返しワクチン支援を打診しているが、北は拒否の姿勢を崩していない。昨年9月に中国がシノバック製ワクチンを申し出た際も、「より必要としている国」に送るようにと述べ、支援を固辞した。

北朝鮮国営メディアは海外での副反応の事例を盛んに報じ、ワクチンの効果に疑問を呈している。支援分だけでは全国民に行き渡らないとみた政府が、ワクチン不要のポーズを国民に提示している可能性がある。

変異株の震源地になるとの懸念

一方、米議会が出資するラジオ局「ラジオ・フリー・アジア」は、北朝鮮でごく一部の国民を対象にワクチン接種が実施されたと報じている。金正恩氏が「不滅の愛の薬」と呼ぶ輸入ワクチンを、国家の建設プロジェクトに従事する兵士たちに限って接種しているという。

だが、国民の大多数への接種は遠い。ワクチンと十分な医療体制のない北朝鮮において、新型コロナの感染は急速に広がるおそれがある。専門家たちは、北朝鮮が新たな変異株の発生源となる事態を懸念している。

ドイツ国営の国際放送局「ドイチェ・ヴェレ」は6月7日、 「北朝鮮が新型コロナのアウトブレイクを抑制したと頑なに主張する一方、限定的なワクチン、未発達な医療機関、国民全般の貧相な健康状態から、国際的な保健機関らは、この孤立した国がウイルスの新たな変異株発生に理想的な環境になるとして憂慮している」と報じた。

衛生水準の低い北朝鮮は、腸に関連したアウトブレイクに幾度となく見舞われてきた。コロナ禍と重なった今回、対応のいっそうの難航が予想される。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 

ビジネス

米地銀リパブリック・ファーストが公的管理下に、同業
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    走行中なのに運転手を殴打、バスは建物に衝突...衝撃…

  • 7

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 8

    ロシア黒海艦隊「最古の艦艇」がウクライナ軍による…

  • 9

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中