最新記事

食料安全保障

ウクライナ種子銀行がもつ2000種の穀物遺伝子が危機に 世界の食糧確保にも影響

2022年6月6日(月)16時11分
ウクライナの農作物

ウクライナの戦場に近い国立シードバンク(種子銀行)の地下貯蔵庫で、約2000種に及ぶ穀物の遺伝子コードが絶滅の危機に瀕している。同国のZhovtneve村付近で2016年7月撮影(2022年 ロイター/Valentyn Ogirenko)

ウクライナの戦場に近い国立シードバンク(種子銀行)の地下貯蔵庫で、約2000種に及ぶ穀物の遺伝子コードが永久に損なわれる危機に瀕している。

その危険性が注目されたのは今月、近くの研究施設の損傷がきっかけだった。シードバンクと研究施設は、ともにロシア軍の集中爆撃にさらされるウクライナ北東部の都市ハリコフにある。

損傷を報告した国連食糧農業機関(FAO)設立の非営利組織、クロップ・トラスト(在ドイツ)は、攻撃されたのは研究施設だけだとし、安全保障上の理由から詳細な説明は避けた。ロイターは損傷の原因を特定できなかった。

ウクライナのシードバンクは世界10位の規模だが、貯蔵されている種子のうち、遺伝子コードがバックアップされているのはわずか4%。危機一髪の状態だ。

クロップ・トラストの執行ディレクター、ステファン・シュミッツ氏はロイターに対し「シードバンクは人類にとって生命保険のようなもの。干ばつや新たな害虫、新たな病気、気温の上昇などに耐えられる新しい植物種を育てるための原材料になる」と説明。「ウクライナのシードバンクが破壊されたら、悲劇的な喪失になるだろう」と危機感をあらわにした。

シードバンクの責任者には連絡が取れなかった。ウクライナの科学アカデミーはコメントを控え、ロシア国防省からは今のところコメント要請への回答がない。

研究者らはシードバンクに貯蔵されている遺伝子物質を頼りに、気候変動や病気への耐性を持つ植物を育てている。世界中が異常気象に見舞われる今、地球人口79億人に行き渡る食品を毎シーズン確保する上で、シードバンクは不可欠の役割を果たすようになっている。

シリアの種子を救った北極圏貯蔵庫

先のシリア内戦では、ノルウェーにある世界最大のシードバンク「スバルバル世界種子貯蔵庫」における種子保存の重要性が痛感されることになった。ここは世界で最も重要な種子のバックアップ・複製施設だ。

2015年、シリアの都市アレッポ近郊にあるシードバンクが破壊されると、スバルバルはレバノンの研究者らに向け、乾燥地帯に適した小麦や大麦、草の種子サンプルを送った。

スバルバルは北極圏の山腹にある貯蔵庫に100万種類を超える種子サンプルを保管している。この中にウクライナの種子15万種の4%、数にして1800種余りが含まれる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 3

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの過激衣装にネット騒然

  • 4

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 5

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 6

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 7

    「すごく恥ずかしい...」オリヴィア・ロドリゴ、ライ…

  • 8

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 9

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 10

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中