最新記事

新型コロナウイルス

上海ロックダウンで「飢える」市民の叫び...なぜ、こんなに「無計画」だった?

Desperate in Shanghai

2022年5月10日(火)18時27分
トレイシー・ウェン・リウ(作家、ライター)

220517p30_SHI_02.jpg

食料事情が厳しさを増すなか、宅配の需要は高まる一方だ。野菜を抱えた少女(4月12日) GETTY IMAGES

1月に上海市内で数人の新規感染者が確認され、うち3人がタピオカ店の従業員だと判明すると、市当局はその店だけを封鎖した。その数週間前に西安が大規模なロックダウンに踏み切るなど、中国各地の極端な反応とは対照的だった。ネットでは、このタピオカ店は中国で最も小さな「パンデミック危険地域」だと冗談が飛んだ。

上海の新型コロナ対策チームの一員で感染症専門医の張文宏(チェン・ウエンホン)は、21年7月にソーシャルメディアで「ウイルスとの共存」に言及した。張は今年3月14日にも経済誌の財新に寄稿し、ウイルスの致死性は大幅に弱まっており、これまでのように恐れなくてもよくなるだろうと主張。ゼロトレランス政策は重要だが、「今後もロックダウンと大量検査を長期的に続けるとは限らない」と述べた。

とはいえ、上海のソフトパワー戦略だけでは、オミクロン株の感染拡大のスピードと規模に対応できなかったことも事実だ。

全域封鎖はないはずだったのに

上海では3月上旬から一部でコミュニティー単位のロックダウンが始まった。一方、上海警察は3月22日に、市内全域がロックダウンされるだろうとネットで言及した人々を「風説の流布」と非難。捜査が始まったと言われている。多くの上海市民が全面的なロックダウンはないと信じ、食料や物資を買いだめする機会を逸した。

しかし、4月1日には市内のほぼ全域が封鎖された。中国のロックダウンは厳格で徹底しており、若干緩和されたとはいえ、ほとんどの人が自宅や居住している建物から出ることができずにいる。

多くの市民は、封鎖が始まったときに手元にあった食料だけで閉じ込められている。人口過密な巨大都市という住環境も、食料の備蓄を難しくしている。

「食べ物を買いだめするのは気が進まなかった」と、27歳のパン(本人の希望で姓のみ)は言う。普段から家ではほとんど料理をしない。住んでいるアパートはかなり狭く、中国で一般的に見られるように、冷凍庫のない小型冷蔵庫と調理用の電気コンロが1口しかない。

パンデミックの初期にロックダウンが行われたときは政府から食料の配達があり、今回もそうだろうと信じていた。友人たちにいろいろ聞いて、卵、ヨーグルト、インスタントラーメン、ポテトチップス2袋を購入したが、それで8日間、食いつなぐ羽目に。4月7日にボランティアの人が何軒も店を回って、いくらか野菜を見つけてくれた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

午前の日経平均は反落、米景気や欧州政局の不透明感を

ワールド

7月英総選挙、保守党の議席激減か 世論調査で苦境さ

ビジネス

中国5月鉱工業生産、予想以上に減速 小売売上高は加

ビジネス

中国不動産投資、1─5月は前年比10.1%減 さら
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:姿なき侵略者 中国
特集:姿なき侵略者 中国
2024年6月18日号(6/11発売)

アメリカの「裏庭」カリブ海のリゾート地やニューヨークで影響力工作を拡大する中国の深謀遠慮

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「珍しい」とされる理由

  • 2

    FRBの利下げ開始は後ずれしない~円安局面は終焉へ~

  • 3

    顔も服も「若かりし頃のマドンナ」そのもの...マドンナの娘ローデス・レオン、驚きのボディコン姿

  • 4

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開する…

  • 5

    米モデル、娘との水着ツーショット写真が「性的すぎ…

  • 6

    水上スキーに巨大サメが繰り返し「体当たり」の恐怖…

  • 7

    森に潜んだロシア部隊を発見、HIMARS精密攻撃で大爆…

  • 8

    なぜ日本語は漢字を捨てなかったのか?...『万葉集』…

  • 9

    サメに脚をかまれた16歳少年の痛々しい傷跡...素手で…

  • 10

    メーガン妃「ご愛用ブランド」がイギリス王室で愛さ…

  • 1

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 2

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車の猛攻で、ロシア兵が装甲車から「転げ落ちる」瞬間

  • 3

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思っていた...」55歳退官で年収750万円が200万円に激減の現実

  • 4

    米フロリダ州で「サメの襲撃が相次ぎ」15歳少女ら3名…

  • 5

    毎日1分間「体幹をしぼるだけ」で、脂肪を燃やして「…

  • 6

    カカオに新たな可能性、血糖値の上昇を抑える「チョ…

  • 7

    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「…

  • 8

    「クマvsワニ」を川で激撮...衝撃の対決シーンも一瞬…

  • 9

    認知症の予防や脳の老化防止に効果的な食材は何か...…

  • 10

    堅い「甲羅」がご自慢のロシア亀戦車...兵士の「うっ…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 4

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「…

  • 5

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…

  • 6

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 7

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 8

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 9

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思ってい…

  • 10

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中